オーディオの進化に合わせて、高音質な音楽制作を期待したい
小島 今の音楽制作って自宅である程度最終形に近いところまで作り込んでいけるじゃないですか。その中で完結できるクオリティーと、ある程度外部の人や機材、スタジオに任せる部分を、どういう風に切り分けしていますか?
松隈 ロックっぽいサウンドであれば自分でやったほうが理想の音に近づけるのであまりお任せできないんですよ。ただ自分が得意ではない生楽器が多い、という悩みもあります。以前、TM NETWORKの『Get Wild』を僕がアレンジするというお話があったんです。96kHzで録ったのですが、そういうときは信頼できるエンジニアに頼んで一緒にやりました。
小島 生音を扱うスキルみたいなものは、PCで完結する作業とは違う技術が必要な気がしますね。
松隈 やっぱり生録りに関しては、スタジオのプロの方には絶対に勝てない。
小島 そういう人たちがだんだん減ってきてしまうと今後困りますよね。
松隈 単純に予算的なもので選んでしまったりすることもあります。CDが売れないから予算も減り、家で完結せざるを得ないという本音もあって。できることなら大きいスタジオで腕のある人に録っていただきたいんです。けれど、業界全体で予算が減っていて、スタジオがバタバタと潰れちゃっているんですよ。腕のいい人もギャラをたたかれてしまうから、使う機材も安くなるし、使うスタジオも安いところになっていく。どんどん悪化しているような気がしますね。
小島 そうすると唯一生き残れるのはマスタリングスタジオですか?
松隈 マスタリングも厳しいですね。予算がないときはマスタリングを自分でやることもあります。マスタリングにお金をかけられるって今は結構贅沢ですよ。
小島 するとオーディオメーカー側から期待したいのは、もし今の状況がどんどん進んでいったとしても高音質だけは保ってほしい、ということになりますね。たとえ家の中で完結する制作でも……。
松隈 でもそれは大事ですよね。
小島 ハイエンドのオーディオというのは、突き詰めると一部の人がお金と場所と使って楽しむ趣味です。けれど、音楽を聴く人が相変わらずこれだけ多くいる以上、オーディオ機器の能力をフルに活かしてくれるような音楽があってほしいですね。それもクラッシック、ジャズばかりではなく現代的な音楽であったらなお嬉しいです。
松隈 僕の音なんてハイエンドオーディオで流す人がいるのかなと思っちゃっていたんです。きちんと聴いてもらったり、J-POPを考えて機器を開発していただいているというのを初めて知りました。その方面ももっと意識しないといけないですね。
小島 本来はターゲットをひとつに絞らないといけないというのは不幸ですよね。PCオーディオによって、リリースできる音源のバリエーションが広がったとすれば、ぜひPCオーディオ用にもっとハイレゾのBiSを作ってもらいたいなぁ(笑)。
松隈 がんばります(笑)。