電気自動車が戦うためのこれからの課題
これまで語ってきた電気自動車によるラリー参戦の話は、いいこと尽くめの様な雰囲気になっているが、実際には大きな課題が含まれている。航続距離と充電である。
電気自動車が充電しなければ走らないのは、ガソリン車が給油しなければ走らないのと同じであるが、この充電が出来る場所がラリーのコースにあるとは限らない。いや、むしろ皆無であるといえる。今回のリーフの場合、充電のために急速充電装置を搭載したトラックを用意した。
エコロジーの代表選手のように扱われる電気自動車にとって、ディーゼルエンジンで発電した電気を使うのはいかがなものかという批判もあるかもしれないが、そこはこれからの課題をクリアするための試策として大目に見たい。それはさておき、充電の話に戻ると、急速充電をするにもルールに則る必要があるので、必ずしも満充電でスペシャルステージを走れるわけではない。30分で急速充電完了がリーフのスペックだが、基本的には整備中に充電をすることになるので、競技中に整備に当てられる時間がそれよりも長いとは限らない。
特例で車両保管中も充電できるように出来るようにする場合もあるが、そこは主催者の裁量にかかっているので必ず特例が出るとは限らないのだ。満充電にならない状態での競技となると、おのずと電気の消費を抑えた走行になるのだが、それでも競技である以上、レーシングスピードで走行しなければならないというジレンマもある。そこで様々な策を講じることになるのだが、そのひとつが先述のエコタイヤである。
スペシャルステージとの間をつなぐリエゾンという移動区間で、公道競技用のSタイヤとエコタイヤでは電力消費量が1割以上違うとのことで、この1割がスペシャルステージに大きく響いてくるらしい。すべてをトータルで考えなければ完走すら危ぶまれるのだ。充電のタイミングが限られ、なおかつ走行可能距離が短い電気自動車ならではの工夫と言える。
競技においてクルマ自身にも大きな負荷がかかるが、特に走行用バッテリーへの負荷から来る発熱も相当なものだという。猛暑の中で行なわれたモントレーと丹後半島ラリーでは、充電の際もスポットクーラーで選手ではなくバッテリーを冷やしているところが印象的であった。このバッテリーの冷却は課題としては急務だという。
また、日産リーフはもともとスポーツ走行を想定していないクルマなので、競技用のパーツは一切無い。全日本EVレースに参加するリーフRCは、日産がエキシビション用に作ったもので、そのノウハウが他の競技に行き渡ることはなく、今回のラリー用リーフは必要なパーツをすべて一品製作しているのだ。
特にサイドブレーキは電磁式から油圧式に大幅に仕様変更されており、またサスペンションパーツもノーマルをベースにレギュレーションに沿って強化されたものとなる。パーツ類にいたってもトライ&エラーの連続であり、こちらもこれからの課題のひとつとなるのだ。
様々な課題が山積みではあるが、丹後半島ラリーでは3位という大きな結果を残し、その可能性を垣間見せた電気自動車、日産リーフのラリー参戦。それはこれからの電気自動車発展の、少なくない一助をもたらすことは間違いない。
ちなみに、この日産リーフの次戦は「新城ラリー2013」(10月25日(金)~27日(日)となる。その勇姿を目撃できるチャンスが私たちにもあるという幸せを感じて欲しい。