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大谷イビサのIT業界物見遊山第6回

ハードウェアのコモディティ化を楽観的に捉えてみる

今の中小企業のIT担当者が本当にうらやましい!

2013年09月11日 10時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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ハードウェア製品のコモディティ化が進んでいる。部品価格の下落、競合とのシェア争い、価格重視マーケットへの参入など、ベンダー側の事情はいろいろあるが、中小企業にとってみれば、コストパフォーマンスの優れた製品を低廉な価格で導入できるよい機会になっている。

エンタープライズクラスのスモールビジネス向け製品が次々登場

 ADC(Application Delivery Controller)ベンダーのF5が先日発表したローエンドモデル「BIG-IP 800」。(関連記事:F5、138万円の戦略製品「BIG-IP 800」を価格重視の市場へ)最大のアピールポイントは138万円という価格だ。これまで同社のADCはもっとも低い価格帯でも300万円強であり、「製品はいいのだけど高価」というのが一般的な評価だった。BIG-IP 800は既存のローエンドモデルの約半分以下というプライシングになったわけで、ベンダー自体が「価格破壊」を行なった形といえる。

 実はこうした価格破壊は、もちろんF5の専売特許というわけではない。エンタープライズ市場で実績の高い製品が、価格重視のスモールビジネス市場に降りてくるという例は最近さまざまな製品ジャンルで見られる。

 たとえば、ストレージ分野でいえば、EMCのユニファイドストレージ「VNXe」が挙げられる。従来のEMCストレージは信頼性も高かったが、価格も高かった。最低でも300万円台だったEMCのストレージは、スモールビジネスのユーザーにとって見れば、まさに「高嶺の花」。そのため、コンシューマ系のストレージに甘んじるしか選択肢がなかった。しかし、100万円台という価格で登場したVNXeであれば、導入を検討する余地が出てくる。最近では、VNXeも100万円を切るモデルが登場し、競合のネットアップも追従するローエンドモデルを市場に投入している。ユーザーにとって、選択肢が増えたわけだ。

 セキュリティ分野では、チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズの「Check Point 1100 Appliance」を紹介しておきたい。エンタープライズ向けのファイアウォールやIPSを中心に展開してきた同社が、スモールビジネス市場を開拓すべく、コストパフォーマンス重視で提供する戦略的な製品がCheck Point 1100 Applianceだ。ファイアウォール、VPN、IPS、アンチウイルス、メールセキュリティのほか、アプリケーションコントロールやURLフィルタリング、ユーザー管理まで、UTM以上に豊富な機能をてんこ盛りで提供する。スモールビジネスのセキュリティアプライアンス市場はフォーティネットのシェアが大きいので、ここを本格的に攻めるという意図と考えられる。

スモールビジネス向けの「Check Point 1100 Appliance」

 注目したいのが、これらのスモールビジネス向け製品は、エンタープライズ製品の機能を削った“安物”ではないことだ。BIG-IP 800もハードウェア面では上位機種に劣るものの、ソフトウェアは同社オリジナルの「TMOS」を搭載している。また、ネットアップのローエンドモデルに搭載されているソフトウェアは、上位モデルと同じ高い実績の「Data ONTAP」だ。Checkpoint1100も、筐体こそ従来と同じようなコンパクトなモデルだが、中身はSoftware Bladeアーキテクチャを搭載した完全なエンタープライズ仕様である。

 もともと、数多くのベンダーがひしめくx86系サーバー市場やシェア動向が他と異なるネットワーク分野では、早くからこうした価格破壊・コモディティ化が進んでいた。これがコモディティベンダーの台頭を経て、他のインフラ分野に拡がってきたと言えるだろう。

ハードウェア製品のコモディティ化が市場を拡げる?

 こうした現象は通常、「ハードウェア製品のコモディティ化」として捉えられる。とても平たく言うと、「エンタープライズでのハードウェア価格が下落して、ベンダーの商売が行き詰まってきたので、価格を下げてスモールビジネスで勝負しよう」という流れである。市場動向としては、プログラムのチップ化が進んだことで、高性能なハードウェアが安価に入手できる。また、オープンソースのソフトウェアを積極的に活用することで、低価格を実現するアプライアンスベンダーが増えてきた。こうした理由から誘発されるコスト圧力は市場の趨勢だが、業界の方向性としてはやや世知辛いわけだ。

 一方で、この現象をポジティブに捉えることもできると思う。ハードウェア製品のコモディティ化は今まで導入を見送っていたユーザー層を、再度掘り起こせるのではないかという論だ。それを端的に表わすと、「今の中小企業のIT担当者が本当にうらやましい!」のような脳天気なタイトルになる。でも、実際に今のIT担当者は、高度なトラフィック管理機能を持つADCや1.5Gbpsのスループットを誇るファイアウォール、デュアルコントローラー対応の高信頼ストレージなど、5年前に比べて圧倒的に安い価格で導入できるのも事実。日々、ニュースでアプライアンスの価格を書いていると、そのインパクトを実感する。

 もちろん、同じスペックの製品は5年前にも存在していたが、とてもスモールビジネスで導入できる価格ではなかった。つまり、予算が5年前と変わらなくとも、導入できる製品、実現できるソリューションは一気に拡がっていると考えられるのだ。今後、ネックである運用管理の課題を解決すべく、高品質・低価格なマネージドサービスが国内市場に根付けば、スモールビジネスの市場においてはクラウドよりコストパフォーマンスが高いという時代すら到来するかも知れない。

 課題はこうした現状を中堅・中小企業のユーザーがまだまだ認知していないということだ。SIerは、IT投資に悩む情シス担当者を再度ドアノックし、こうした現状とソリューションを提案することが必要なのではないだろうか?


筆者紹介:大谷イビサ

 

ASCII.jpのTECH・ビジネス担当。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、日々新しい技術や製品の情報を追う。読んで楽しい記事、それなりの広告収入、クライアント満足度の3つを満たすIT媒体の在り方について、頭を悩ませている。


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