四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第128回
ホンモノを作った「ToneGarage」の開発チームインタビュー後編
真空管ならディスクリート回路、ひたすら真面目に作ったんです
2013年09月07日 12時00分更新
リースナブルな価格でホンモノを作る
―― ディスクリート構成というのがウリになっているんですが、こうするメリットはなんですか?
李 真空管を搭載していても、オペアンプで設計されているものはかなり多いんです。でも回路の動作や、出てくる音を考えると、できる限りオペアンプ無しで、より真空管アンプに近い構成にしたかったんです。真空管アンプもディスクリートですよね?
―― つまりメリットは音ということですか?
李 そうです。
遠山 ノイズは圧倒的に有利だよね?
小田 違いが分かる人にしか分からない、というレベルかも知れませんが。高級ブティック系※5の、3万とか4万とかするようなエフェクターと同じタイプのこだわりが、これに入っているわけですね。
※5 ハンドメイドかそれに近い形で少量生産されるエフェクター。
―― これはどこで生産しているんですか?
西堀 日本です。
―― じゃあ、高級エフェクターと言ってもいい?
遠山 そうです、Made in Japanの高級エフェクターです。
小田 ただ、僕の感覚で言えばフェアトレードというか……。世の中には3万も4万もするような、不当に高いエフェクターもあるんじゃないかと思うんです。
―― ああ、ときどきありますよね。中がスカスカなのに、やたら高いのが。
小田 うちは量産できるメーカーだから、同じクオリティーでも安く抑えられるアドバンテージはあると思うんですが、でもフェアに作ったらこうなりますよ、ということなんですね。
遠山 作りに関してはブティック系と一緒なんですが、部品を一度にたくさん買えたりすることで、安くできましたということですね。個人でやっている所は、売る数も少ないので、どうしても高くしていかないと、利益が取れないという問題があって、ああなっているんだろうと思うんですが。そこが数を売れるVOXブランドの強みだと思います。
―― となると少量生産のブティック系メーカーは厳しくならないですか?
坂根 楽器なので好き嫌いだと思うんです。中を開けたらスカスカの回路でも、僕はこの音が好きだというなら、それは価値のあるものなんです。だから自分にあったものを選んでもらう、ということですね。
李 3万、4万するようなペダルの回路がどういうものか、もちろん設計する立場としてすべて分かっているんですね。オペアンプを使った昔ながらのオーバードライブの回路で、9Vを18Vに昇圧して、特別なダイオードを選んできました、と。それで「真空管アンプの音が出る」みたいな広告を打っていたり。もちろん聴けば一発で分かるんです、真空管アンプの音でもないですから。そういったものに対して、真空管の音と言うなら、真空管を使おうよと。かつ、真空管を使う以上は、ディスクリート回路というところまでこだわる。そこまで言うなら、ここまでやるべきなんじゃないかという、メーカー側の出した回答ということですね。
西堀 ただ、ひたすら真面目に作ったということですね。
李 そこでこのシリーズが言いたいのは「10万円のオーバードライブが出たらしい」というニュースが出てきたとして、「10万ならさぞいいんだろう」と思う人もいるわけです。でも、実際に音を聴いたり、中を見たら「あれっ?」っていう。値段そのものを宣伝に使っちゃってる。そういうところに、リーズナブルな価格でホンモノがありますと、そういう主張はしたいです。
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。
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