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最新クラウドサービス選びの勘所 第2回

アウトソーシングという視点から見るクラウド・サービスの選び方(後編)

クラウド・リソース選びのポイントは「3+2+5要件」

2013年08月27日 08時00分更新

文● 入江宏志/ディメンションデータジャパン シニアEAコンサルタント

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具体的にはこの10のポイントを確認しよう

 この「3+2+5要件」に沿って、アウトソーシング、ホスティング、クラウド等で提供されるコンピュータ・リソース選択の際に確認すべきことを具体的に挙げてみたい。

(1)一貫性
 ITの世界ではデータの一貫性が生命線である。たとえば分散検索システムで、可用性ばかりを重視して一貫性を軽視するならば、検索結果に差異が生じてしまうおそれがある。そのため、適切なタイミングで、データセンター内あるいはデータセンター間で定期的にデータの同期がとられなければならない。

 DR(災害復旧)においても一貫性は重要な要件だ。メインサイトとDRサイトでデータの一貫性が維持されていなければ、業務継続に支障をきたすことになる。クラウドによるDRが提案されることもあるが、パブリック・クラウドを利用する場合は単なるバックアップに近い。RTO(目標復旧時間)ゼロを目標とする本格的なDRは、技術的にオンプレミスやプライベート・クラウド間で構築しなければならないことは心得たい。

(2)可用性
 プロバイダーが外部に公表しているSLA(サービスレベル契約)、それを実現できなかった場合の補償(クレジット、利用料金の割引率)はそれぞれどの程度かという数字も具体的に押さえておきたい。たとえば可用性SLAが99.5%となっていれば、年間に43~44時間のダウンタイムを許容する計算になる。同様に99.95%で年間4~5時間、99.99%で年間53分間のダウンタイムまで認めることになる。

(3) 拡張性
 これまでオンプレミスのITインフラは、利用ピーク時に必要となるスケールを想定して“大きめ”に設計されてきた。だが、クラウド・コンピューティングに代表される新しいアウトソーシングの場合、その都度オンデマンドで必要なITリソースを使うかたちであり、拡張性が大切であることは言うまでもない。

 なおプロバイダーやサービスによっては、リソースの「拡張」はできるが「縮小」はできないということもある。それではコスト・メリットが得られない可能性もあるので、必要に応じて増減できるかを事前に確認してほしい。

(4) OPEX化(運営費化)
 これはコンサルタントとして実感していることだが、テクノロジーにかかるコスト(ハードウェア、ソフトウェア)を固定費としてではなく、変動費として計上したいと望んでいるユーザー企業は多い。可能な限り初期投資コスト(CAPEX)を抑え、運用費(OPEX)のみを負担する形だ。

 課金方式の選択肢としては月額固定料金方式、従量制課金方式(PAYG:Pay As You Go)があり、支払い方式としてプリペイドが選べる場合もある。また、導入する企業にもよるが「見えざるコスト」も考慮する必要がある。アウトソーシング・モデルの採用により、一見コスト削減できたように見えても、予想もしない内部/外部要因が出てきてコストがかさむのが常だからだ。

(5)俊敏性
 契約したその日からすぐにリソースを使用できるのか、あるいは使用開始までに時間がかかるのか(どのくらいかかるのか)を確認する。さらに、個別見積もりなど契約前に時間がかかる作業が発生しないか、クレジットカード決済でも契約が可能か、あるいは日本独自の商習慣に合った決済方式を提供しているかなども注意してほしい。

 使用開始の俊敏性だけでなく、使うのをやめる際の俊敏性も大切だ。「最低利用期間」のような縛りはないか、解約によるペナルティはないか、解約手続きは簡単かといったことも調べておきたい。

(6)サービス品質
 可能であればPoC(機能検証)を実施して、パフォーマンスなどの厳しいユーザー要件を満たしているかどうかを確認する。プロバイダー自身、あるいは第三者機関が公表している他社との性能比較結果なども参考になるだろう。

(7)堅牢性(セキュリティ&コンプライアンス)
 コンプライアンスの観点から、そのサービスが国や業界が求める基準(たとえばセーフハーバー原則、SSAE16、PCI DSSなど)を満たしているかどうかを確認する。また、情報漏洩に備えてデータは暗号化されているか、DoS/DDoS攻撃への対策は取られているか、IDS/IPSのモニタリング機能はあるかといったセキュリティ視点での確認もしなければならない。

(8)可視化
 ここで言う可視化とは、メータリング、チャージバック、ビリングなどの機能により、課金されているリソースの使用状況をきちんと「見える化」することである。

 従来はリソースの詳細な使用状況がわからなかったため、コンピューター・リソースを頻繁に利用する部署もそうでない部署も等分に費用を負担するか、あるいは情報システム部門が自らの予算で一括してまかなうケースがほとんどだった。「誰がどれだけ使ったか」を可視化することにより、部署ごとの正確な従量課金が可能となり、公平な費用負担を実現できる。これまで過剰にリソースを使ってきた部署も、費用対効果の観点からそれが本当に必要かどうかを問い直すことができるようになり、最終的にITの全社最適化が推進されるはずだ。

(9)自動化
 ITアウトソーシングを提供するベンダーの方とお話ししたとき、冗談交じりで「運用者がミスをしない魔法の手袋が欲しい」とおっしゃっていた。アウトソーシングに従事する者の理想は、ミスをなくすために人手での作業をなくし、それを自動化することである。

 これはユーザー側にも言えることで、作業の自動化によってミスや手間を減らすことができる。そのため、たとえばオートスケール機能は備えているか、サービス監視は自動化されているかといったことは重要だ。人手による作業を減らすことで、1人の管理者が運用/監視できる対象を大きく増やせることも自動化のメリットだ。

(10)統合化
 ここで言う統合化とは、分散コンピューティング環境で、データセンターやITインフラが統合されているかどうかという意味である。たとえば、個人情報や機密情報を含むデータをユーザーが希望する国のデータセンターに配置できるかどうか。法規制上の問題で、そうした要件が必須になる場合がある。また分散環境でもデータベースが使えるか、リスク管理の観点から異なる物理サーバー上に複数のVM環境を用意できるか、ロードバランサーの機能は備えているか、といったことは見ておきたい。

 以上紹介してきたとおり、自社の要件を「3+2+5要件」に落とし込み、それぞれの重要度や実現可能性を考慮して、最適なコンピュータ・リソースを選択していただければと思う。

筆者紹介:入江宏志

ディメンションデータジャパン シニアEAコンサルタント。 クラウド・コンピューティング、ビッグデータ、GRC(ガバナンス、リスク管理、コンプライアンス)、ITアウトソーシング(ITO)、次世代情報システムやデータセンターなど幅広い領域を対象に、新ビジネス・モデル、アプリケーション、ITインフラの3つの観点からコンサルティング活動を行っている。29年間のIT業界経験の中で、第4世代言語の開発を経て、IBMとオラクルで首尾一貫して先端領域を担当してきた。


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