マレーシアでの顧客の2/3は
実は日系企業以外
ICT途上国として有望なマレーシアだが、今泉氏が赴任した2008年当時は、NTTコミュニケーションズが保有する敷地内に、データセンターが1つ、メインビルディングが1つだけだった。今泉氏は、「取得した土地も半分しか使っていなかったので、これを有効活用するのが私の課題でした」と語る。そこで、近くに借り上げていた第2データセンターとは別に、NTTコミュニケーションズ自体が第3データセンターとオフィス棟を作ることにしたという。この第3データセンターの需要が好調に推移した結果、現在は4番目のデータセンターが開所するに至っている。
金融系ユーザーもターゲットにしていることもあり、マレーシアの同社のデータセンターはすべてティア3レベルで、PCI DSSやISMSなどの認定も取得しているという。「敷地の周辺にはF1で使うようなフェンスを施してある上、1メートル近く盛り土されており、とても堅牢です」(今泉氏)。特にデータセンターとオフィス棟の組み合わせという提案は他社にはないメリットで、第4データセンターのオフィス棟はデータセンターと異なる専用発電機とUPSを持ち、オペレーションセンターとしての信頼性を高めた。
面白いのは、このデータセンターを利用する顧客層だ。マレーシアでのNTTコミュニケーションズの顧客のうち、日系企業は全体の1/3に過ぎず、データセンターの顧客になると、実に2割以下にまで減る。2/3は現地法人や多国籍企業とのことで、きわめて現地依存率が高いという特徴を持つ。日系のアジア進出にあわせてビジネスが拡大したというわけではないわけだ。この理由を聞くと、今泉氏は「たまたま現地企業の方がつきあいやすかったということでしょうか。現地企業や多国籍企業の方が意思決定が速く、コンサルティングなど出た条件がうまくあえば、すぐに導入になります」と語る。また、NTTコミュニケーションズ自体も国際MPLSサービスやグローバルIPトランジットなどのオペレーションの一部をすでにマレーシアにオフショアしている。
実際の利用形態としては、マレーシア国内のメインおよびバックアップデータセンターとしての用途のほか、東南アジア域内のハブとして利用したり、東日本大震災以降は日本の顧客がバックアップ先として利用することも増えたという。「自然災害が少ないこと、ネットワークが充実しているところ、コストがかからないことなどを評価し、SAPのオフショア先として選んでもらっているとこもあります。マレーシアにおいても、上場企業のBCPが義務づけられたので、オフィスとデータセンターがセットで売れています」とのこと。業種面では、「イスラム金融のハブとして注目度の高い金融やオイル・ガス産業、あとはケータイなどへの配信を行なうメディア企業が現在のおもなターゲットです」という。
現状、ITベンダーの競合としては、IBMやHPなどのグローバルベンダーになるが、NTTコミュニケーションズとしてはデータセンターや後述するネットワーク、他のNTTグループ企業を含めたアプリケーション開発まで含めてトータルで提供できるのが、大きなメリットだという。今泉氏は、「アジアの場合、ネットワーク環境の品質は、顧客の課題としてつねに上位に上がります。その点、NTTのデータセンターに入っていただければ、われわれ自体がバックボーンのネットワークやデータセンターまで100%管理しているので、お客様に安定感を与られます」とアピールする。