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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第213回

動画再生、通信、物理演算に特化したコプロセッサーたち

2013年07月29日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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GPU内蔵ビデオアクセラレーター全盛期に
投入された「SpursEngine」

 動画アクセラレーターの市場は、しばらくGPU内蔵アクセラレーターのみだったが、2008年頃に東芝が投入したのが「SpursEngine」である(関連記事)。

「SpursEngine SE1000」を搭載した基板

 当初は東芝の製品にのみ搭載された「SpursEngine」であるが、2009年には拡張カードがリリースされ、2010年には「SpursEngine」を4基搭載した拡張カードが発売された。

1枚の基板上に4基の「SpursEngine」を搭載したLeadtek製の拡張カード「WinFast HPVC1111 Four Wheel Drive SpursEngine 4x4」

 ベースとなるのは、IBMとSCE、東芝が共同開発した「Cell BE」だ。ここから汎用処理のPPE(Power Processor Element)を抜き、またSPE(Synergistic Processor Element)も4つに減らした代わりに、MPEG-2やH.264に対応した動画圧縮伸張回路などを搭載したものである。

 これによって動画のエンコード/デコード時の性能改善やCPU負荷の低減が図れるというもので、実際そうした効果はあったものの、製品の投入は2012年でほぼ終わっている。実際、東芝のSpursEngineスペシャルサイトも最終更新が2010年7月であることから、ほぼ製品寿命が終わったことが伺える。

 理由はいくつかあるが、コプロセッサーであっても連続的に性能や機能を上げていかない限り、汎用のCPUとかGPUに性能面や価格面で負けてしまうわけで、「SpursEngine」もこの例外ではなかったということだろう。

 ちなみに業務用向けには、動画のエンコード専用アクセラレーター/コプロセッサーは様々ななものが提供され続けている。例えばビデオカードメーカーとしてはほとんど消えてしまったカナダのMatroxであるが、業務用の市場では依然として存在感があり、最近では「Radient eCL」(関連リンク)というFPGAベースのビデオアクセラレーターを投入していたりする。

Matrox「Radient eCL」

 この業務用向け市場には、国内ではグラスバレー(旧カノープス)なども製品を投入しているが、やや話がそれていくのでここでは割愛する。

FAXからギガビットイーサまで担う
通信コプロセッサー

 通信関連のアクセラレーターはいくつかあったが、筆者の知る限り明確にコプロセッサーの働きをしたものとして最初に挙げられるのはインテルの「SatisFAXtion」である。

Intel「SatisFAXtion Modem/400」。画像はhardwere_museumより(http://hardware-museum.livejournal.com/11082.html)

 これはFAXの送受信を自動で行なってくれる拡張カードである。発売は1991年から1992年にかけてのことで、ローエンドの「SatisFAXtion Modem/100」が129ドル、ミッドレンジの「SatisFAXtion Modem/200」が369ドル、ハイエンドの「SatisFAXtion Modem/400」が549ドルといった価格であった。

 1991年から1992年なので、まだMS-DOSの頃である。当時は、FAXを扱うためには画像データのハンドリングが必要であり、「SatisFAXtion」は単にモデム回線での送受信に加えて、G3 FAXのフォーマットのハンドリングや、MS-DOS上で動くワードプロセッサー出力のG3 FAXフォーマットへの変換なども扱っていた。

 もっともG3 FAXフォーマットへの変換はCPUで処理していた記憶があるが、一度フォーマットを変換した後のFAX送受信は完全にボード上のコントローラーが担っており、その意味では間違いなくコプロセッサーとして動作していた。

 この「SatisFAXtion」であるが、インテルの期待したほどには売れたとは言いがたく、またソフトウェア面での対応が重荷になったためか、1996年頃にはほぼ市場から消えており、1997年には(インテルから委託を受けてSatisFAXtionの開発を行なった)FaxBack, Inc.に商標を売却。製品ラインそのものは台湾企業に売却されてしまった。

 ここまで完全なアクセラレーターでなく、部分的な機能を持つものとしては、例えばTCP Offloadingがある。TCP Offloadingは連載204回で説明した機能であるが、インテルが販売する一部のイーサネットカードにはこのTCP Offloadingの機能を持つものが現在も販売されている。

 また、米Bigfoot Networks(現在はQualcomm Atherosに買収され、Killerという名称で同社の一部門になっている)が販売していた「Killer Xeno Pro」(関連記事)は、TCP/IPの処理を全部オンチップのコントローラーが担う、ある意味コプロセッサーと呼ぶに相応しい製品だった。

ギガビットイーサネット対応カード「Killer Xeno Pro」

 もっとも同社の最新ソリューションである「Killer E2200」はそこまでのオフロード性を持たない、「遅延が少ない」だけのネットワークコントローラーということになっている。

 元々「Killer Xeno Pro」の場合、Freescaleのe300という組み込み向けコントローラーに必要なネットワークスタックを全部乗せてPCI ExpressでCPUと通信するという構成であったが、Qualcomm Atherosの買収後は、Atherosの持つGbEコントローラーにプレミアを付けて売る方向になっており、そうなるとアクセラレーター/コプロセッサーの機能を搭載するのは現実問題として難しい。

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