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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第213回

動画再生、通信、物理演算に特化したコプロセッサーたち

2013年07月29日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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 コプロセッサーの歴史を説明していくうえで、前回はFPU(浮動小数点演算ユニット)だけを取り上げた。しかし、コプロセッサーはメインとなるプロセッサーと協調して動けば良いので、必ずしもFPUだけがコプロセッサーというわけではない。そこで今回はFPU以外のコプロセッサーを紹介していこう。

 もっとも難しいのは、「アクセラレーターとなにが違うのか?」である。例えばGPUはグラフィック処理を専門に行なう一種のコプロセッサーだ。DirectXにしてもOpenGLにしても、完全にソフトウェアで実行することは不可能ではない。どちらもソフトウェアのリファレンスドライバーが提供されているからだ。ただ速度の面では実用的でないため、ハードウェアで処理しているにすぎない。

 この観点で言えば、「ソフトウェアの形で主プロセッサーで処理するものをオフロードできる」わけで、一種のコプロセッサーであることは間違いない。さすがにGPUは製品数も多いし、すでに主要な製品は紹介しているので省かせていただくが、今回紹介するものはコプロセッサーというよりもアクセラレーターとして知られているものが少なくない。

動画再生支援に特化した
ビデオ コプロセッサー

 動画の分野は昔からアクセラレーターが必要な分野であった。PCで動画を扱えるようになったのは、アップルが提供したQuickTime、あるいはマイクロソフトがWindows 3.0に追加する形でWindows MME(Multi Media Extentions)の提供を始めた1991年までさかのぼる。

 当時のPC/AT互換機は、まだIntel 486ベース、Macintoshは「Motorola MC68040」を搭載したQuadraが最新機種で、とてもではないがフルサイズの動画はまともに扱えなかった。

 フォーマットはおおむね8bitカラーのQVGA(320×240ドット)前後だったが、中には160×120ドットやQCIF(176×144ドット)のものもあり、また動画フォーマットは非圧縮というケースが珍しくなかった。その後、PC/AT互換機にしてもMacにしても動画圧縮フォーマットをサポートし始めるが、やはり圧倒的にCPU側の能力が足りないことに変わりはなかった。

 処理の重さが特に顕著になるのは、1993年に標準化されたMPEG-1である。これを使ったコンテンツとしてVideo CDというものが出回るようになる。これはCD-ROM1枚にVHS画質の動画を最大74分格納できるというもので、非圧縮のCDと同じ1411.2Kbpsで映像と音声を圧縮保存するものだ。

 MPEG-1では再生側にとっても動き補償や逆量子化/逆DCT/色空間変換など負荷が大きいもので、当時のハイエンドPCやハイエンドMACをもってしてもリアルタイム再生は困難であった。

 この市場に燦然と登場したのが、今はなきChromatic Researchの「MPACT!」である。Chromatic Researchを設立したのはRAMBUSを設立した1人であるMike Farmwaldだ。

動画再生支援チップ「MPACT!」

 「MPACT!」は792bitものVILW/SIMDプロセッサー(基本はVILWプロセッサーながら、内部でSIMD的にデータ処理できるユニットが混在している)と4KBのSRAMをパッケージしたチップで、これに外付けでRDRAMを搭載するというものだった。

 「MPACT!」はMPEG-1の動画エンコードをチップ単体で行なえたため、当時はCD-ROMドライブに「MPACT!」の拡張カードを組み合わせて販売するパターンが流行した。

「MPACT!」を搭載したPCI拡張カード。画像はWikimedia Commonsより(http://en.wikipedia.org/wiki/File:STB_210-0307-001.jpg)

 この「MPACT!」をさらに強化したのが「MPACT! 2」である。これは初代「MPACT!」の2倍の性能をたたき出すとされた。ただ当初1997年のクリスマスシーズンには出荷できる予定だった「MPACT! 2」は実際にはやや遅れ、1998年に入ってからの出荷となった(関連記事)。

MicroProcessro Report誌の1996年11月18日号に掲載された「MPACT! 2」のブロック図。内部は6つのALUグループから構成され、合計1080bitものbit幅となっている。パイプライン段数は35段(!)だった。

 問題はこの頃には、急速にCPUの計算能力が上がっていたことである。初代「MPACT!」の頃にはCPUの演算能力は低かったが、Pentium-MMXの登場によって動画処理は多少精度を犠牲にすれば性能改善が可能になった。そのうえ1999年以降はPentium IIIのSSEやAMDのK6-2で性能差はさらに縮まった。また「MPACT!」の特徴だったMediaWareの出来があまりよろしくなかったことも製品寿命を縮める結果になった。

 最後のとどめは、S3やATIなどがグラフィックコアに部分的とはいえ動画再生機構を入れ始めたことで、これにCPUの演算性能を組み合わせるとMPEG-1はおろか、より負荷の高いMPEG-2であってもそれなりに再生できる。そのため、動画再生アクセラレーターとしての「MPACT!」のニーズはほぼ完全になくなってしまった。

 「MPACT! 2」は3D描画にも色々色気を出していた製品であったが、適切なAPIをサポートしていなかったこともあり、こちらのニーズはほとんどなかったと記憶している。動画エンコードまで出来たらまた話は変わったのかもしれないが、そこまでの能力は「MPACT!」や「MPACT! 2」にはなく、後継の「MPACT! 3」は完成する前に放棄され、会社も1998年10月にATIに買収されてしまった。

 ただその後も、GPUベンダーは引き続き動画のエンコード/デコード用のアクセラレーターをGPUに統合する形で提供を続けている。これはCPUの伸びを上回る勢いで動画フォーマットの負荷が高まっているためである。最近では4K解像度に対応したH.265フォーマットをCPUだけで処理すると、デコード速度が数FPS程度ということもあり、動画アクセラレーターは提供され続けている。

※お詫びと訂正:記事初出時、MacintoshのQuadraに搭載されたプロセッサーに誤りがありました。記事を訂正してお詫びいたします。

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