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ElitePad 900をレジに使う

可能性を感じた、HPの着せ換えられるモバイルPOS端末

2013年07月19日 08時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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 スーパーやコンビニ、あるいはファーストフード店のレジなどに置かれているPOS端末。業務機器然とした据え置きの端末をイメージする読者が多いだろう。しかし米ヒューレット・パッカード(HP)が現在積極的に取り組んでいるのは、モバイルPOSと呼ばれるタブレットをベースとしたソリューションだ。

 昨年(2012年)の1月に、米国のニューヨークでNRF(全米小売業協会)主催の展示会を取材した。その際、HPの担当者に同社のリテールソリューション(POS端末、モバイルタブレット、デジタルサイネージなど)に対する取り組みについて詳しく聞く機会があった(関連記事)。

 かつてのPOS端末は専用に作られた機器が中心で、ローカルのプレーヤーが強い分野でもあった。しかし現在ではこれらの端末の多くが、PCをベースとした汎用機器に置き換わっている。

 どんな商品が、いつどこで売れたかを正確に集計し、在庫状況の把握や適切な調達に役立てる。あるいは顧客の行動をより深く分析し、将来的なビジネスに備える。

 そのためには、協業を視野に入れた“ITソリューション”が必要だ。HPは世界有数のPCメーカーであるが、POS端末の製造・販売でも高い存在感を示している。

ジャケットですぐに、Windows 8タブレットをPOSに使える

 さて昨年のNRFで見たHPの“モバイルPOS”端末はWindows 7やAtomを採用したスレートPC「HP Slate 2」にバーコードリーダーや磁気カードリーダー付きのケースで覆うというものだった。

HP Slate2をベースにしたモバイルPOS端末。バーコードスキャナーや磁気カードリーダーなどを安全な一体型のケースに収納している

 このコンセプトはさらに進んでいる。今年6月に米国ラスベガスで開催された“HP Discover 2013”(関連サイト)では、Windows 8搭載のタブレット「ElitePad 900」に装着する、専用ジャケット(HP Retail Jacket for ElitePad)を発表。今後はこの形に移行していく。

HP Retail Jacket for ElitePadを装着した写真

 二次元バーコードリーダーや、磁気カードリーダー、追加バッテリーなどを一体化する点は同様だが、ジャケットになったことで突起部分がない。薄型の本体をスポイルせず持ち運びがしやすいという点が特徴となる。背面にはハンドストラップを取り付けるための穴がある。この部分は、ユーザーが付け替えて左利き・右利きのどちらの位置でも利用できるなど、ユニバーサルデザインにも配慮している。

Windows 8を搭載したElitePad 900は汎用性が高く、ジャケットシステムで様々な機能を拡張できる

背面のハンドストラップは、付け替えることで左右どちらの手でも利用できる。読み取り用のボタンも左右についている

 Slate 2ベースの製品ではもともとの本体は小さいものの、突起部が多く、あまりスマートに感じない面もあったが、ElitePad 900用のジャケットではそういった感想を持たずに使えそうだ。業務用機器で求められる堅牢性の高さに配慮しながら、「スリークかつエレガントで、ローコストだ」と、HPでアジア太平洋地域でリテールソリューション部隊を率いるChristian Charlton氏も自信を見せる。

持ち運びが自由で、POS以外の用途にも使える

 それではなぜHPはモバイルPOS端末に積極的なのだろうか。

 まずWindowsタブレットはPOSと相性のいいデバイスと考えられる。タッチ操作で直感的に使え、据え置きはもちろん携帯も可能。汎用性が高く多種多様な用途に対応できる。そして、HPが特に注目しているのはマルチユースのデバイスであるという点だ。

一瞬みただけでは気づかないかもしれないが、左右両方の向きから対応できる磁気カードリーダーを備えている

バーコードリーダーもジャケットに一体化しておりコンパクト。二次元バーコードの読み取りにも対応する

 店頭にPOS端末を置く場合、何台のPOS端末を置くかは課題になる。導線を考えれば、最も利用者数が多い繁忙期に備えて設置する数を決めたいところだが、逆に人が少ない時期や時間帯ではPOS端末を余らせることになる。

 会計や注文などで客を待たせたり、販売の機会を損失することなく、効率的な調達をしたい。そんなニーズをElitePad 900とジャケットシステムが満たしてくれる。

 ElitePad 900はWindows 8が動作する一般的なパソコンであるため、当然のようにPOS以外の用途に使える。繁忙期でなければ、タッチ操作を生かしたセルフサービス端末として、店内ディスプレー用に使ってもいいし、在庫管理やマーケティングのための入力端末としても活用できる。ソフト面ではWindows用の豊富なアプリケーションを切り替え、ハード面ではジャケットを着せ替えればいい。

 利用率に合わせて最適な使い方をユーザーが選べるため、機器の稼働率が上がり、TCO削減に寄与するのである。

 また持ち運べるという利点を生かし、混雑したレジ周りの整理にも役立つ。POS端末を持った店員が自ら列のほうに歩いていって、列に並んだまま決済を進めるられるからだ。屋外でのイベントなど、店の外に出た決済に使うといった用途にも応用できる。

 これ以外にも電車の車内販売や、レンタカー、レストランのテーブルで直接注文するといった形で発想しだいで様々な応用が可能になる。実際、顧客にElitePad 900とPOS用のジャケットを見せると、ユニークなアイデアが続々と出てくるという。

モバイルPOSはゲームチェンジャーになりうる

 「モバイルPOSはゲームチェンジャーになりうる」と、米ヒューレット・パッカードのバイスプレジデントで、リテール・ソリューションの責任者であるRay Carlin氏は話す。「アプリケーションの方向性は出張のたびに増える」のだという。

米ヒューレット・パッカードのバイスプレジデントで、ワールドワイドのリテール・ソリューションの責任者であるRay Carlin氏(右)と、アジア太平洋地域でリテールソリューション部隊を率いるChristian Charlton氏(左)

 Carlin氏は「買い物は店頭から始まるわけではない」と話す。

 かつて消費者は自分のほしい製品の情報を集めるために店頭に脚を運んだ。店頭でカタログを集め、店員に話を聞き、価格を確かめ、展示されている商品に実際に触れながら、自分が買うべき商品を決めていった。

 しかし、インターネット接続が可能なデバイスの普及によって、消費者はインターネットで事前に商品の情報や、買うべき商品を絞り込むことが可能になった。実物を確かめるために店頭にも脚を運ぶが、実際に購入するのは自宅に戻ってネットで一番安いショップから……といった形になることも珍しくはない。

 スマートフォンに代表される携帯性が高く、ネットに容易に接続できるデバイスの登場はこうした購入のスタイルに拍車をかけている。

 HPが提唱する“Seamless Store Concept”は、こうした“新しい消費者の行動”を再定義し、オンラインとオフライン双方がスムースに連動した、新しい購入の流れを提案。POS、マーケティング、デジタルショーケースといった、これまで個々に存在してきたIT技術を統合しサポートしていくというものだ(関連記事)。

 もちろん、eコマースが十分に普及した現在でもリアル店舗には存在意義がある。商品を実際に試したり、質問を絞り込んだ上でより深い質問をしたり、店員のアドバイスから別の視点でヒントを得るといったことは有益だ。

 とはいえ、実際に衣料品店に脚を運んでみたが、好みの色がなかった場合、オンラインを通じてその場で発注まで済ませられたほうが便利だし、逆にオンラインで調査する過程でうまく店頭に消費者を誘引する(あるいは消費者の側から詳しく商品の情報を知れる店頭を探す)ための導線も必要になるだろう。

 しかし既存の流通業界に目を向けると、組織の違い、担当者の違いなどに起因する阻害要因は多々存在する。「昨日も日本のあるリセラーと話したが、オンラインの担当だから、リアル店舗のことには口を出せないと言われた」とCarlin氏は話すが、こういった典型的なやり取りが意図するしないに関わらず、存在するというのは課題だ。

NFCを利用したソリューションにも期待

 HP Retail Jacket for ElitePadは統合性が高く、デザイン面でも優れるが、国内で使用することを考えると、非接触型ICに対応しない点が残念といえば残念だ。

 しかし、ElitePad 900自体はNFCを本体に内蔵しており、FeliCaのプラグインなどをいれることで、シンクライアント型決済システムを実現するといったことも可能なようだ。同社でも検討段階にあるという。NFCは決済に利用できるほか、スマートフォンなどに蓄えたクーポンの情報を使って特価で販売するといったことも可能になる。

 こうしたカスタマイズ性の高さもPCならではだろう。

 モバイル、タブレット、スマートフォン、デジタルサイネージ、そしてセルフサービスといった要素がオンラインとオフラインのギャップを埋めるひとつのカギになるとHPではみている。店舗において、デジタルメディアやデジタルコンテンツを使いながら、顧客の求めるものを提示する。これをソリューションプロバイダーとの協業を通じて、平等な立場で提供することが、Seamless Store Conceptの一端となっている。

 モバイルPOS端末が持つ、マルチユース、統合性、という部分はそのための大きな力を示すというのがHPの主張だ。堅牢性や品質基準を保ちつつ、エレガントに持ち運べるElitePad 900は大きな可能性を感じさせた。

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