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夏野剛氏:テレビ番組はCM付きでネットに流すべき

2013年07月26日 16時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)/アスキークラウド編集部 撮影:西尾豪

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なぜこの時代に成長しようとするのか

――なぜ、放送局はそこまで踏み出さないんでしょうか。

 例えば、DVDというパッケージであとから売りたいという気持ちもあるわけじゃないですか。DVDはDVDで、オンデマンドは(マイナスに)影響しないんですよ。ドラマのDVDは一回、番組を見た人たちが買うから。でも、思い切りがないんですね。

 ドラマは放送後一週間はオンデマンドで無料で、CM付きで飛ばさずに視聴できる。それで6ヵ月後にDVDが出る。見逃す人は一杯いますから、それでいいじゃないかと思います。でも、「オンデマンドで視聴されたら、DVDが買われなくなってしまうんじゃないか」みたいにネガティブな影響を与えそうな要素を見つけて、腰が引けてしまう人が多い。

オンデマンドがDVDの売上を減らすことはないと夏野氏


――腰が引ける理由は、従来の事業を維持しようとしているからでしょうか?

 いや、事業を成長させようとしているからこそ、そのような考え方が出てくるんだと思います。高度経済成長期の名残です。

 マスメディアは日本の人口全員を相手にしていたけど、日本の人口は増えることはない。今まで人口×視聴率で計算して広告売り上げを稼ぐビジネスモデルで来たのだから、人口のパイが変わらない、もしくは減ってしまう状況に合わせて、複数のルートを使って総合的な視聴率を維持する、でいいじゃないですか。広告媒体費は同額のままで、今の減りつつある視聴率をネット配信でサポートしますよ、と言えばいい。ネットでも流すことでCMの単価が維持できていればいいと思います。

 それなのに、ネットに流すと追加で収入が得られると考えて、コンテンツの再販で儲けようとしている。視聴者にしてみれば、お金を取られるくらいだったら、放送局のコンテンツを見ずに、ニコ動のコンテンツでも見ようかと、悪循環になってしまう。


――変わることを恐れているようでは、放送局の未来は暗いと。

 いやいや、変わっているものは枚挙に暇がないですよ。

 例えば2010年、いわゆる「尖閣映像」がYouTubeに出ましたよね。それまで放送局は、インターネット上の映像なんて使っちゃいかん、というムードだったのが、あのとき初めて「YouTubeより」という注釈つきでテレビに映像が流れた。同時期にニコニコでは、テレビに出演しない小沢一郎さんの生中継番組を放送した。そこで意識がガラッと変わったんです。ネットとテレビは相容れないものではない、と。

 そして2011年3月、NHKと在京民放キー局が、東日本大震災のニュース番組のインターネット同時再送信をした。そこからは放送局のインターネットへの姿勢が一気に変わってきたわけです。今ではニコファーレで放送局が音楽番組を作ったり。テレビ東京の番組「ドリームクリエイター」は、ニコニコ動画のクリエイターが出演してますよ。生放送はニコニコで、編集したものはテレビ東京で流すんです。こんなの、あり得なかったでしょう?

六本木ニコファーレ

 間違いなく、放送局側はネットを無視していないですよ。去年のNHK紅白はニコファーレを意識したと思う。最近はコメンテーターの発掘もネットでやってます。僕なんかもテレビに出ますけど、事前打ち合わせはほとんどなし。ツイッターで普段どんなこと言っているかは分かってるからです。バラエティ番組の担当者はみんな、ネタ探しや番組作りのヒントにニコ動見てますよ。

 いろいろな融合が進む一報で、進まない領域もあったり、まだら模様です。将来のテレビ業界が明るいか暗いかは分からないですね。変わろうとする人たちが出てきているけど、変わろうとしない意識の人たちも一方にいる。いまは、明るいものと暗いものが混在してる状態だと思いますよ。



 夏野氏へのインタビューの続きは、好評発売中のアスキークラウド 2013年9月号(創刊号)の特集「グーグルも狙うテレビ業界」にて掲載。「テレビつまらない」論が出てくる背景、ビエラCM拒否問題の真相、そしてテレビ業界の未来についても取り上げる。


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