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前田知洋の“タネも仕掛けもあるデザインハック” 第21回

イノベーションは社会の歪みから誕生する

2013年07月19日 09時00分更新

文● 前田知洋

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needsやwantsより大切なこと

 新商品や新サービスのプレゼンでは、社会や人々の「needs」「wants」を知ることが重要などといわれます。しかし、イノベーションを複雑にするのは「人々が自分にとって必要なことをわかっているか」という前提条件です。たとえば、病気になったとき、患者は「調子が悪い、苦しい」は感じることができます。しかし「何が必要なのか?」を知るには医師などの専門家に頼るほかはありません。

 「歪み」は、外側からの力など、環境の変化によって本来の形が変わることで生じます。単純に考えれば、その外部の力を取り除けばいいのでしょうが、それは簡単なことではありません。たとえば、冒頭で紹介した「バーバルコミュニケーションよりキーボードを叩くほうが得意」というケースでは、「社会の価値を変えよう!」なんて駅前やネットで呼びかけるだけでは、社会はすぐには変わりません。

 冒頭に紹介した「バーバルコミュニケーションよりキーボードを叩くほうが得意」のケースでは、「それじゃあ、性格を変えたら…」なんて方法もあります。しかし、そんな自分の性格と社会の価値観との歪みを発見することがイノベーションのチャンスになることもあります。問題は、その「歪み」がどれくらい社会に拡がっているかを知ることも大切になります。

ねじれていることで価値が生まれた「メビウスの輪」Photo / David Benbennick (CC BY-SA 3.0)

拡散する歪みを見つけるには

 イノベーションの手段については、ビジネス書や専門書でも「新しい財貨の生産」「新しい生産方法」「新しい販路」「原料の新しい供給源」「新しい組織の実現」など、多く紹介されています。しかし、ここでは、そのイノベーションの生まれる前段階、イノベーションが生まれるべき「歪み」を見つけるためのポイントを考察してみます。

拡散する歪みを見つけるポイント

○鈍感にならないこと
 「社会って、こんなもんだよ」とか「既得権があるからしかたないよ」などと思考せず、腹立たしいこと不満に感じることがあれば、なぜそうなのかを分析する。ニュースや事件でも「本来あるべき姿は?」「現状は?」「そうなる理由は?」を想像してみることが役立ちます。

○似た歪みを集めてみる
 過去にも似た歪みが問題になっていないか、小さな歪みでも様々な場所で起きていないかを調べてみる。友人や知人が自分と似た悩みや不満をもっていないかを気にしてみます。秘密さえ守れば、人間関係も構築できて一石二鳥です。

○少しでも社会を良くしようと願うこと
 「どうしたら売れるか?」「収益をあげるには?」ももちろん大切なポイントです。しかし、イノベーションの本当の価値は社会や誰かの役に立つこと。便利になるだけでなく、社会的なコストとバランスをとる必要があります。たとえば、人工でダイヤモンドを作る技術がありますが、その製造には本物のダイヤモンドの価格と同じくらいの経費がかかります。よほどの付加価値をつけなければ普及は難しいでしょう。

 現代の社会の歪みを見回して、これから流行りそうなマジックを予想すると「お金がドンドンと増えるトリック」でしょうか…。ただ、こればかりはダ・ヴィンチも熱望した錬金術と同じ、永遠にかなわない欲望という人間の歪みなのかもしれません。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。現在、ビジスパからメルマガ「Magical Marketing - ソシアルスキル養成講座 -」を配信中。

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