KADOKAWAと講談社、紀伊國屋書店がタッグを組み、図書館向けの電子書籍レンディングシステムを構築する――。第20回東京国際ブックフェアの基調講演で、KADOKAWAの角川歴彦取締役会長が明らかにした。
角川会長によると、戦後の貧しい書店を支えてきた委託制度と再販制度が、2012年~13年にかけて起こった電子書籍の登場、Amazonを初めとする「黒船」の上陸、楽天の大阪屋救済による取次進出、著作権法の改正に際し出版社が結束して権利を訴えた「4つの事件」によって変革を迫られているという。
すべての背景は「デジタル化」だ。デジタル化は音楽から映画、放送の順番で進んできており、出版業界は最後のターゲットというわけだ。
角川会長は「Amazonが大きくなるに任せてしまったのは、出版業界に問題があったから」と断言する。旧来の制度が、内側からのイノベーションを妨げていたが、今後は出版業界全体がひとつになって「黒船」に対応していく必要があるというのだ。
角川会長は書店をプラットフォーム化して、クラウドに出版社の在庫を集め、店頭で本を閲覧してすぐに注文できるような仕組みを作るという。「ひとりではできないので、講談社、集英社、小学館とも一緒にやる」(角川会長)。
図書館は出版社にとって大口顧客であると同時に、新刊の大量購入で売上げを減らす要因だ。国内ではAmazon.comが参入しておらず、国内出版業界が共通のプラットフォームを先んじて作って対抗できる余地がある。
角川会長に紹介されて登壇した紀伊國屋書店の高井昌史社長は、「アメリカで図書館の95%を押さえているオーバードライブが日本に上陸しては困る。紀伊國屋書店は電子書籍で負けているが、大学図書館や法人向けでも敗北すると、出版業界を守れない」として、アメリカで図書館向けに電子書籍の貸し出しサービスを提供する「オーバードライブ」への危機感をにじませた。
講談社の野間省伸社長は、Amazon.comやGoogleと取引していることに言及しつつ「これまでルールを変えてこなかったので、(デジタル化を主導するクラウド企業に)いいようにやられた。何もしなければ滅んでしまう意識を持って、今回のプロジェクトを進める」と力を込めた。
角川会長は「Amazon.comができることは、出版業界がひとつになってやらないといけない」と指摘する。「余生をかけて出版業界のルールを変える活動をする」(角川会長)。日本が培ってきた豊かな出版文化を守り育むための戦いの始まりだ。