デザイナーの理想をも最大限実現した新型筐体
——新製品で実現する性能や品質と、デザインモチーフの両方が「刀」というキーワードで表現されているということですね。従来のLIFEBOOK UH75/Hの厚さが9.0〜15.6mmだったのに対し、今回のUH90/Lは9.2〜15.5mmと、タッチパネルを搭載しながら外形寸法ではほぼ同じ水準を実現しています。この、「薄くても頑丈」という印象を与えるために、デザイン面ではどのような工夫があったのでしょうか?
岡本氏:従来のLIFEBOOK UHシリーズは「折り紙」をデザインコンセプトにしており、本体の表面に折り曲げた紙が巻かれているイメージでした。このデザインは、当社にとって最初のUltrabookであり、できるだけセンセーショナルに登場したい、ひと目で富士通の製品であることが分かる象徴的な外観にしたいというところから採用したもので、薄さと美しさを表現できたと考えています。
しかし、薄く見せるがための色分けや部材構成は、筐体側面のパーツをかみ合わせる部分で線が出てきてしまうため、剛性感、堅牢性という点ではもう少し他の表現があるのではないか。ここに挑戦したのが今回の「刀」コンセプトです。
——薄い部分にパーツの分かれ目があると、視覚的にはそこからバラけてしまうような印象を与えかねない?
岡本氏:そうなんです。そこで今回は、薄いものが何枚も重なっているというよりは、ソリッドで密度のある、ふたつのかたまりから構成されるというイメージを守りきることを第一にデザインしました。
機能が美しさと直結していると同時に、昔の武士にとってのステータスシンボルだった「刀」というキーワードを、何をもって製品に体現させるかというところですが、実は部材の素材自体は従来と同じものを使っています。天板と底面はマグネシウム合金、キーボード面はアルミニウムです。しかし、我々が「超圧縮ソリッドコア構造」と呼んでいる今回の筐体では、側面部分のパーツを重ねることで、物理的にねじれに強い構造としながら、勘合部の線をなくして見た目にも強固なイメージとすることができました。
——デザイナーの実現したいデザインがある一方で、実際の製品では技術や仕様、コストの都合などで妥協せざるを得ないというケースはよくあると思いますが、今回はいかがでしたか?
岡本氏:筐体の部材はプレス加工で製造するのですが、デザインチームとして特に気を使ったのは、側面をきっちり90度に立ててエッジを出していくなど、ディテールの処理を切り詰め、精度を上げていくことです。
設計の部隊には「このクリアランス(隙間)をなくして」「ここのアール(角の丸み)は限りなくゼロにして」といった、普通の開発現場では「そこまではできない」と怒られてしまうような細かな要求もかなり出しましたが、今回は薄く、堅牢で、美しいという「刀」コンセプトをスタッフ全員が共有しており、「僕らがやりたいのはこれだ」というデザインを初期の段階で提示していたので、デザイナーの希望が多くの部分でほどなく達成できた製品だと思います。
——実際の図面につながっていくデザインの実作業は太田さんが主に担当されたということですが、これまでの他の製品と比べて、仕事に質的な違いを感じる部分などはありましたか?
太田氏:私は今年で入社3年目で、PC関連では女性向けUltrabookの「Floral Kiss」で周辺機器のデザインなどを担当しましたが、本体のデザイン作業は初めてでした。商品企画部の方や設計部隊の方からこうしてほしいと、多方面からたくさんの要求が寄せられるので、それぞれの意見をくみ取ってひとつの形にしていくのは今までの仕事とはまったく違うところでした。
——今回のチームの中ではかなりの若手のようにお見受けしますが、「デザイン部隊としてこうしたい」という要求を通していく難しさはありませんでしたか?
太田氏:コンセプトを実現させるために、チーフの岡本やデザイナーの先輩方にサポートしていただいた部分が大きいです。納得いかない部分は、何度も設計者さんに確認しましたね。「ここ、あと0.1mm小さくしてください」って何回も電話したり。素材にしても、エッジの効かせ方ひとつとっても、何パターンもCADで図面をひいてみて、コンセプトがストレートに形に落ちてきているか、何度も確認しながらデザイン検討を行ないました。
岡本氏:いかにブラッシュアップしているかの一例として、今回は内部で最初に制作したコンセプトモックよりも視覚的に薄く見せることに成功できたというところがあります。
コンセプトモックを作った時点の厚さは目標値なので、開発途中でどうしても入れたい仕様を盛り込んでいくと、モックよりボリュームが増してしまう。そのとき、パーツひとつひとつまで厳密にデザインを作り上げていくと、スペック上の厚さは増してしまっても、視覚的には薄く見せていくことができる場合があります。
例えば、人がPCの側面部分を見ると端子類がある部分にまず視線が向くことが一般的ですが、パーツの配置によって視線をコントロールすることで、なるべく厚みを気付かせないようにするといった工夫も行なっています。また、持っていただいたときに、見た目だけでなく触れた時にも実装物が隙間なくキッチリと詰まっているという、密度を感じるデザインになるよう心がけました。
太田氏:PCの開発では、内部的な設計がデザインを決めてしまう部分もありますが、そのようなときでもエンジニアの方から「もう少しここを動かしたらデザインが良くできるよ」という提案をいただいたり、デザイナーのほうから中身を見て「このスペースをこちらに移動させたらもう少し詰められますよね」というお願いをしたり、お互いうまくコミュニケーションを取りながらできたと思っています。
山田氏:「薄く丈夫に」というみんな同じ目標を持っていることで、デザイナーのやりたいことと、それに対して我々技術陣ができる工夫を提案する、あるいは逆のこともありますが、それぞれのテリトリーを尊重しながらも、お互いそこへ踏み込んでいかないと、保守的になってチャレンジができなくなってしまいますからね。チームワークがうまく実り、コンセプトを実現できた製品だと思います。