コンテンツはSamsungのアキレス腱
巨額のマーケティング予算からすれば、Jay-Zに支払う2000万ドルは痛くないのかもしれない。だが、Samsungにしてみれば、このような提携を通じてGALAXYで音楽を利用してもらわなければならないという事情がある。
5月にGoogleが「Google I/O」で発表した「Google Play Music All Access」、そして6月にAppleが「WWDC」で発表した「iRadio」と、モバイルでも利用できるストリーミング系の音楽サービスが大手から発表された。Samsungは端末の台数上ではAppleを上回る最大手だが、サービスのプラットフォームやコンテンツといった点では、AppleやGoogleに譲ることになる。
Samsungもその状況にただ手をこまねいているではない。ちょうど1年前の2012年5月末、GALAXY S IIIの発売に合わせて「Music Hub」を発表した。買収したmSpotのクラウド音楽ロッカーサービスを強化し、1900万曲のカタログを持つ音楽ストア、ラジオなどを加えた音楽サービスだ。
まずは英国など欧州から提供を開始したが、Music Hubの提供国は欧州5ヵ国のほか、米国、オーストラリアなど一部にとどまり、利用できる端末もGALAXY S III、GALAXY Note IIなどの機種に制限されている。
Samsungのメディアサービス担当上級副社長のTJ Kang氏は当時、コンテンツとサービスを強化分野として積極的にテコ入れすると語っていた。今年はSamsung端末と提供国の両方でMusic Hubの拡大を進めていく計画のようで、Samsung以外の端末も視野に入れているという憶測もある。だが、ローンチから1年、Music Hubがこれまでユーザーにどれぐらいのインパクトを与えているのか、どのぐらいの売上をもたらしているのかは分からない。
GoogleやAppleだけではない。音楽ストリーミングはSpotify、Rdio、Pandoraとさまざまなサービスがあり競争が激しい分野だ。もちろん、「Kindle」のAmazonもいる。
一方で、端末メーカーが音楽サービスを提供して爆発した例はほとんど聞かない。古くはNokiaが「Nokia Comes With Music」という無制限音楽ダウンロードサービス、そして音楽に特化したSymbianスマホ(「Nokia 5800 Xpress」)などで何度か試みたがニッチに終わった。ソニーも「Music Unlimited」を持つが、一体どれぐらい訴求しているのだろうか?
なお、デジタル音楽市場は「iTunes」とiPodで成功したAppleがいまだにトップで、7割以上のシェアを占めているといわれている。
音楽業界とモバイルのベストマッチは?
CDの販売が低迷する音楽業界にとって、モバイルは重要なチャンスだ。今回のJay-ZとSamsungのようなパターンが可能なアーティストは限られそうだが、コンテンツを必要とするモバイル、収入の流れを多様化したいアーティストとお互いのニーズは合致している。そういった点からは興味深い提携となりそうだ。
筆者紹介──末岡洋子
フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている
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