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NTT Comのクラウドサービス部 部長に聞いた

AWSにコストで負けることが必然だとは思わない

2013年06月05日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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「黒船」と呼ばれたAWSの上陸からすでに2年が経ち、Windows Azureもいよいよ国内にデータセンターを開設する。こうした中、国内の事業者はどう戦っていくのか? NTTコミュニケーションズ クラウドサービス部長の田中基夫氏にインタビューした。

アウトソーシングの波は脈々と来ていた

TECH 大谷:NTTコミュニケーションズが、クラウドサービスを展開してそれなりに時間が経過しました。まずは田中さんの市場分析と差別化ポイントについて教えてください。

NTTコミュニケーションズ クラウドサービス部長 田中基夫氏

NTT Com 田中氏:現状、一番ぶつかるのは国内のSIerさんですね。こうしたSIerさんとの差別化はお客様からもよく聞かれますし、毎日悩んでいることですが、やはり大きいポイントは、われわれが「インフラサービスカンパニー」であることです。最近は“サービスとして”という言い方も意義深いなあと思うのですが、とにかくきちんとインフラを構築し、それを安定的に、長期的にお貸しするということを重視しています。

僕の理解では、SIerさんはアプリケーション開発を軸に垂直型でビジネスを展開しており、その延長でクラウドがあるのですが、われわれはより下のレイヤーからスタートしています。ですから、設備やハードウェアがしっかりしているというのが、一番の特徴です。そして、今はそれをグローバルに展開しています。

TECH 大谷:そういったインフラが意識されるようになったのは、やはり東日本大震災以降だと思うのですが。

NTT Com 田中氏:トレンドとして、波は2つあります。1つめの波は首都圏の一極集中や安定した電力の調達に限界を感じたというもので、震災直後は衝撃波のように押し寄せました。そのときのデータセンターの問い合わせ件数はすさまじかったです。現在でも関西にデータセンターを移設したいというニーズは残っていますが、かなり収まっている気がします。

そして、もう1つ震災以前から脈々とあったのが、実はアウトソーシングの波です。サーバーの自前を運用はやめようとか、コアコンピタンスではないITは外部に任せようという流れの中で、Amazon Web Services(以下、AWS)が登場して、あれで十分じゃないかという意見になってきたわけです。

TECH 大谷:つまり、震災でもともとあったアウトソーシングの波が加速されたと。やはりAWSのインパクトはNTTコミュニケーションズにとっても大きいわけですね。

NTT Com 田中氏:まず率直に既存のビジネスを大きく変えたAWSに対しては、尊敬をしています。そして、AWSとの戦いが大変ということも理解しています。AWSも昔はおもちゃのような扱いをされていましたが、今では「こんな企業が使っているんだ!」と驚くことが多いです。コンピューターをはじめとしたICTリソースを徹底的にユーティリティとして使えるようにしたことで、ゲームのやり方、ルールを変えつつあると思っています。しかもすごいスピードで進化していますし、No.1プレイヤーであることは間違いないです。

通信事業者としてのAWSとの戦い方

TECH 大谷:しかし、先日の事業戦略説明会では有馬社長もAWSと戦っていくと宣言されていましたね。

NTT Com 田中氏:はい。現在のAWSはサービスとして割り切っている部分があります。「蛇口があるので、つなぎに来てください」という感じです。もちろん、それに魅力を感じている方も多いのですが、今までSIerさんに手厚くサポートされてきた日本企業に必ずしも通じるメッセージとは思いません。ですから、当面は日本でAWSと戦う余地はあると考えています。

グローバルという観点で見れば、確かにAWSは優位です。しかし、彼らの狙っている市場はとてつもなく大きい。ですから、もう少しネットワークやデータセンターを意識したサービスがほしい、もう少しカスタマイズしたい、もっとセキュリティがほしいというニーズは確実にあり、われわれはそれをきちんと拾えます。

特に「Bizホスティング Enterprise Cloud」は素のクラウドの部分を提供するだけではなく、いろいろカスタマイズできたり、周辺の製品やセキュリティサービスと組み合わせたり、こってりしたサポートを提供したり、より企業向けに作っています。一方で、AWSの原始的な姿に近い「Cloud N 」はサポートやカスタマイズ性がない分、コストをおさえてますし、オートスケールのような機能も充実させています。こちらはゲーム系やインターネット事業者に使ってもらいたいと思っています。

TECH大谷:AWSはクラウドビジネスを作るとともに、コスト面で大きなインパクトを市場にもたらしました。クラウドサービスにかかわらず、すべてのICTベンダーは現在すさまじいコストダウン圧力にさらされていると思うのですが、ここに関してはどう対応していくんでしょうか?

NTT Com 田中氏:よく「AWSと戦っても、最初から負け」みたいに書かれることも多いのですが、果たしてそうなのでしょうかと思います。僕はAWSにコストで勝てないと決めつけないでほしいです。

AWSにコストで勝てないと決めつけないでほしい

確かに電気代とか、人件費とか、土地代とか、絶対的な固定コストの問題はあります。しかし、戦い方はわかっています。電話が良い例ですが、われわれは100年に渡って、設備を打ち、サービス提供を続けてきました。メーカーやSIerさんは慣れないかもしれませんが、大きな投資を行ない、それを長い時間かけ少しずつ回収していくというのは、むしろわれわれの本来の姿なんです。電話の交換機に投資して、20年かけて回収するのは当たり前だと思っています。単純にそれが電話なのか、コンピュータリソースなのかの違いに過ぎません。

ですから、競合に対しては「どうぞ価格競争をしましょう」と言いたいです。戦い方が下手で負けることはあるかもしれませんが、負けることが必然だとは思えないんです。

TECH 大谷:確かに通信事業者はサービスのスパンは本当に長いですよね。以前、フレームリレー終了のリリースを記事にしましたが、あれだって16年ですものね。

NTT Com 田中氏:いや、フレームリレーやATMなんて、短いですよ。えっ? もう終わっちゃうのみたいな(笑)。

(次ページ、われわれのシステムをマレーシアに移してもいいくらい)


 

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