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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第206回

Kaveriの年内出荷が怪しくなってきたAMDのロードマップ

2013年06月10日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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 今回はAMDのCPU/APUのロードマップを解説したい。といってもほとんどはAPUの説明になるが、CPUもないわけではない。AMDのCPU/APUは連載180回で説明しており、今回はそのアップデートとなる。

AMD Aシリーズのロードマップ

Kaveriまでの繋ぎとなる
Richlandをいよいよ投入

 では前回からのアップデートをまずお届けする。前々から噂になっていた「Richland」系列のAPUが、6月5日に正式発表された。Richlandそのものは、Trinityコアと同じ32nm SOIプロセスを使ったもので、 基本的にはそのTrinityコアとまったく変わらない。CPUコアはPiledriver、GPUコアはVILW4の「Rareon HD 6000」シリーズそのものである。したがって変更といっても動作周波数の若干の引き上げだけであり、プラットフォームも既存のSocket FM2のままである。

コードネームRichlandこと「A10-6800K」

 強いて違いを挙げれば、ハイエンドの「A10-6800K」がDDR3-2133を公式にサポートしたことに合わせて、CPUコアの動作周波数を200/300MHz、GPUコアを44MHz引き上げている。これは連載180回でも説明した通り次のKaveriまでの繋ぎであり、逆に言えば大きく変更をすると困ったことになるし、その余力もないとも言える。

 GLOBALFOUNDRIESも、もう32nm SOIに関しては基本的にMature(熟成が済んだ)プロセスと見なしている。以前であれば、AMDはCTI(Continuous Transistor Improvement)やSTT(Shared Transistor Technology)といった方法で、プロセス末期まで延々とプロセスそのものや、トランジスターの改良を続けることで、後になるほどプロセスがどんどん改善されていくという傾向を見せたことは、45nm SOIプロセスなどでもご存知の通りである(関連記事)。

 ところがGLOBALFOUNDRIESは、28nm世代ではSOIプロセスを提供しない。正確に言えば、これまでAMDやGLOBALFOUNDRIESが提供してきたSOIプロセスは、PDSOI(Partially Depleted SOI:部分空乏層SOI)と呼ばれる方式である。これとは別にGLOBALFOUNDRIESはSTMicroelectronicsと共同で、28nm/20nm SOIプロセスを提供することをすでに発表している(関連リンク)。

PDSOIの構造。多くのSOIデバイスは、まだこのPDSOIの方式を採用している

 この28/20nm世代のものはFDSOI(Fully Depleted SOI:完全空乏層SOI)といわれるタイプのものだ。32nm世代までのPDSOIと28/20nm世代以降のFDSOIは、どちらもSOI(Silicon on Insulator)と呼ばれる特殊なウェハーを使って製造するため、原理は似ている。しかし、回路技術もトランジスターもかなり構造が異なり、基本的に互換性がない。

FDSOIの構造。原理的にはFDSOIの方がメリットは大きいが、絶縁層の上のシリコンを均一にするのが厚みが少ないため難しく、ここにさまざまな構造を組み込むのも大変といった製造上の問題が、現状はまだ多い

 これとは別にGLOBALFOUNDRIESは、28nm世代や20nm世代、さらには14nm世代向けにバルクのCMOSプロセスを本命として提供する予定である。こちらもプロセスそのものもトランジスターの構造も、従来の32nmプロセスとはまったく異なる。

 細かい話をすると、32nm SOIプロセスでGLOBALFOUNDRIESは、Gate-First方式のHKMG(High-K Metal Gate)という技法を利用している。トランジスターのリーク電流を減らすために絶縁膜を厚くすると、今度はトランジスターの速度が遅くなる。

 これをカバーするために、誘電率が高い(High-K)金属(Metal Gate)を埋め込んで、トランジスターの速度を引き上げるのだが、トランジスターを作る際に早い段階でこのMKMGを作りこむのがGate-First、最後の方で作りこむのがGate-Lastである。

 製造工程的にはGate-Firstの方が製造が容易だが、性能あるいは安定性という観点ではGate-Lastの方が有利とされる。そこでGLOBALFOUNDRIESも、28nm以降のプロセスではGate-Last方式に改めると公表している。

 長々と何を書いてきたかというと、もうGLOBALFOUNDRIESとしては、32nm SOIプロセスを改良したとしても、その経験を続く28nm世代以降にほとんど活かせない状況になっているのである。

 現在GLOBALFOUNDRIESは、28nmプロセスのリカバー(これは後述する)と20nmプロセス、及びFinFETという3次元構造トランジスターを採用した14nm XMプロセスに全力を注いでおり、32nm世代の開発に振り向ける余力は皆無だ。

FinFETという3次元構造トランジスターを採用した「14nm XM」(GLOBALFOUNDRIESのウェブサイトより抜粋)

 以上のように、Richland世代はこれまでのAMD製CPUと異なり、あとから性能の改善や消費電力の削減ができる見込みがほぼゼロである。したがってRichland世代に関しては、おそらくこれ以上製品を投入できる余地はないし、マーケティング的にもあまり意味はないだろう。

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