「お客さまが一番」というのはB2Cの企業では当たり前の心構えだ。ITでコストと距離、時間は削減できるが、顧客満足度はテクノロジーだけでは向上できない。
そんな中、ECサイトにもかかわらずコールセンターを通じた顧客との対話をベースに顧客満足度を上げている米国企業が注目されている。アパレル通販サイトの「Zappos」(ザッポス)だ。このユニークな発想の現場を取材して「顧客を幸せにする企業」の秘密に迫った。
Zapposのオフィスに足を踏み入れると、社員のデスクに驚かされる。職場と言うよりは、ド派手な学園祭の飾り付けのようだ。社員の服装もジーンズにTシャツは当たり前の自由な格好。社員の年齢層はバラバラ、見渡す限り女性が多い印象だ。また、トニー・シェイCEOのデスクも個室ではなく、一般の社員と同じように配置されている。同様にCFOにも個室は与えられていない。
Zapposの顧客満足度の秘訣は、社員が友だちや家族のように付き合えること。そのために力を入れているのが採用面接だ。入社を希望する人材の能力や経験、相性などがわかるまで、多くの社員が何度でも面接をする。Zapposのカルチャーに合いそうな人材だけを入社させるのだ。
入社後は、「Customer Loyalty Team」(CLT)と呼ばれるトレーニングを実施。顧客の問い合わせに対して電話応対する仕事で、配属される部門に関係なく義務づけられる。これを身につけてはじめて、見習い社員になれる。取材時点では600名がCLTに所属しており、365日24時間電話応対に対応していた。過去最高では一日に1万9000件の問い合わせを処理したという。
Zapposに入社した社員は、自分の座席や服装を自由にして自宅のように振る舞う。職場でTwitterをやるのも問題ない。会社を好きになってもらい「Zapposにいるのが楽しい。いつもZapposにいたい」と感じながら働くのだ。会社も同僚も好きになれば、顧客のことも好きになる。電話での応対も顧客が幸せになることだけを考えればいい。売り込みの必要や時間制限は設けられていないので、無駄話をする社員もいるという。
こうして顧客と友だちのような関係を築いて信頼されれば、何かが売れるかもしれない。商品を売るリソースはチームやバイヤーがしっかりサポートする。しかし、売り上げの目標や責任はない。評価基準は設定しているものの顧客を幸せにするのが最優先。そのためには社員が仕事しているときに幸せでないといけない。これがZapposの顧客を幸せにする発想なのだ。
「Zapposはカルト? って聞かれることがあるけど、社員もお客さまも幸せにできるならカルトでも問題ないでしょ? って答えているの」と、オフィスツアーのガイド・ヴァレリー氏は語る。
Zapposの全株式を保有する親会社・アマゾンとの関係については、独立した運営をさせてもらえているという。しかし、ケンタッキーの配送センターは、アマゾンの人間が管理運営しているので、アマゾンのノウハウが取り入れられているのではとのことだ。
Zapposの強みはECサイトではなくカスタマーサービスに尽きる。すべての社員が「顧客を幸せにする」という意識を持つことで実現している。日本のおもてなしとはひと味違ったビジネスモデルといえるだろう。