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山谷剛史の「アジアIT小話」 第48回

中国人が「LINE」を使うと検閲がかかる!? その仕組みは……

2013年05月28日 12時00分更新

文● 山谷剛史

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アプリによって異なるフィルタリングの仕組みと挙動

 中国には「Tom-Skype」というソフトがある。Skypeの中国限定版で、中国でSkypeをダウンロードしようとすると、必ずTom-Skypeのサイトにリダイレクトされ、中国向け以外版のSkypeはダウンロードできない。

 Tom-Skypeの特徴はフィルタリング機能。判明している範囲では、文字ベースのチャットでNGワードが見つかった後、送信ファイルや音声などもマークされるというもの。

 ちなみに“Tom”とは2000年代前半に有力だったポータルサイトだったが、その後失速。Tomの影響力の低さゆえにユーザーが増えず、ユーザーが増えなければその知人友人も通話チャットソフトを使う意味はない、ということで利用者はさほど増えなかった。

 つまり中国でのSkypeがブレイクしなかった原因は、中国だけTom-Skypeだから、露骨に発言の自由がないから、という理由で中国のユーザーに敬遠されたわけではない。

 同様に、LINEに中国人向けの検閲システムが入っていることが明らかになったからといって、中国のネット論壇で動揺の風は微風すら吹いていない。中国人にはユーザー数が4億と非常に多い「騰訊」(Tencent)の「微信」(Wechat)がある。

 Skypeは中国向けにTom-Skypeをリリースしたが、LINEはひとつのアプリに中国ユーザーの判断ロジックを埋め込んだ。

 微信もまたLINE同様、1つのアプリに中国ユーザーか否かを判断し、フィルタリングを機能させる仕組みがある。スマートフォンやタブレットが世界的に普及し、中国から世界にアプリを発信しやすくなった今、中国のSNSサービスを中国国内の流儀で海外に押しつけるのはよくないという判断だろう。

「一App二制度」を紹介する香港メディア

「一App二制度」を紹介する香港メディア

 現在、インドなど各国で展開している微信も、現地で余計な不安をなくすために、中国本土外ではフィルタリング機能を無効とする処置をしている。これを「一国二制度」をもじって「一App二制度」と呼ぶメディアもある。

英語版ですらフィルタリングが機能した微信を報じたニュース

英語版ですらフィルタリングが機能した微信を報じたニュース

 とはいえ「一App二制度」を完全に信じていいものかというと疑問で、微信に関しては「一App二制度」のスタンスを取りつつも、いくつかの特に情報を流通させたくない中国の事件においては、国外のユーザーにすら検閲をかけるという事例があった。国外のユーザーがNGワードを入力すると、LINE同様のエラーメッセージが表示され、送信できないのだ。

 微信と異なり、今のところLINEはクライアント側にだけに簡易なフィルタリング機能がある。そして、その機能は中国のSIMカード挿入時のみ連動する。何よりLINE台湾の陶韻智氏が言うように、LINEは日本企業なので安心して利用したい。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。書籍では「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)を執筆。最新著作は「日本人が知らない中国インターネット市場[2011.11-2012.10] 現地発ITジャーナリストが報告する5億人市場の真実」(インプレスR&D)。

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