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西田 宗千佳のBeyond the Mobile 第114回

東芝開発陣に聞く

渾身の「dynabook KIRA V832」はどう生まれたのか?

2013年06月06日 11時00分更新

文● 西田 宗千佳

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デザインで性能をスポイルするな!
高解像度ディスプレーを生かす工夫も

 デザイン面で、KIRAはさまざまなテクニックを使っている。また、商品企画段階から、ユーザーにアピールする要素として、高解像度ディスプレーを使うことは決まっていた。とすると、PCとしてのハードウェア設計の面で、ある程度の無理も出てくる。だがそのことは、「東芝のPC」たるdynabookである以上、開発側によって言い訳にできない部分でもあった。

古賀氏 「放熱性能などを維持することは『マスト』です。このデザインでできる範囲のバランスで、という話ではないのです。東芝製品として、100%受け入れられる範囲があり、それを越えていないとどのようなものでも製品にはなりません。

 ですから、発熱しても性能が落ちないのは当然のことですし、不快になってもいけません。ベンチマークで負荷をかけたとしても、CPUクロックがスロットリングされ、性能が落ちるようではいけないのです」。

 本体下部はバスタブ型の一体構造になっているが、その内側には、熱を広げて放熱するためのシートが使われている。現在は基板が小さくなっているので、その銅板自体を使った放熱も難しい。ネジを伝わってボディに不快な熱が伝わるのを防ぐため、その配置も工夫している。

本体下部はバスタブ型の一体構造になっているが、その内側には、熱を広げて放熱するためのシートが使われている

 ディスプレーが狭額縁になっているため、無線関連の位置も今までとは違う。

古賀氏 「弊社製品では、送受信効率を考え、無線関連のアンテナは基本的にディスプレー上部に配置されています。しかしこの製品では下部にあります。しかしここでも、通信効率が落ちることは許されません。ですから、がんばって、受信効率が社内基準を満たすよう工夫しています」。

 そして、スペックの面でやはり注目は、WQHDのディスプレーである。

コンピュータグループ 新製品開発担当 シニアエンジニア 八矢好司氏 「これからは、ディスプレーの解像度が上がるのが当たり前だろう、と考えました。

 しかしそこで重要なのは『これでお客様は使えるのか?』という点です。細かくなっても見づらければ、使いにくければ意味がない。『本当にこれでいいのか』という議論を重ねました。そこで、文字の拡大を設定するユーティリティを独自に作って搭載することになりました。

コンピュータグループ 新製品開発担当 シニアエンジニア 八矢好司氏

 やはり大切なのは、『デスクトップの画面を普通に使えるか』ということだと思います。標準出荷では『165%』にしていますが、この値は、デスクトップアイコンが1cm角くらいになって、指で押せる、お客様が違和感なく使えるものであることを基準にしています。

 実際のところ、弊社が提供していたユーリティティでも、165%設定では、いくらか表示が破綻していたものもありましたが、キチンと確認して問題なく使えるように修正しています。提供しているユーティリティでは、マウスカーソルなども含めて、この値で調整しています。ウィンドウをうまく画面に分割配置するユーティリティも用意していますので、今までの解像度では使えなかったような使い方をしていただければうれしいです」。

 高解像度のディスプレーでは、特に写真が映える。これまでより縮小せず表示できるわけで、精細感は圧巻だ。しかもKIRAの良いところは、発色がかなり自然である、ということだ。ここについても、「高解像度ディスプレーを持つノートPCはどう使うのか」という点からの発想があった。

高山氏 「この解像度をお客様に何に使っていただくかを考えた時、やはり『写真を見たいよね』という意見は出ました。これだけ高解像度なディスプレーの上で、写真をきれいに見せるにはどうすべきか、本物に近い、実物にできるだけ近い色にするにはどうしたらいいかを考えました。

 実際のところ、ディスプレーパネルはメーカーから出荷された段階でも、発色に多少のばらつきがあります。そこを自然な色になるよう、1台1台製造ラインで測定して、実物と同じになるように調整を加えています。写真や動画の編集を考慮し、発色についてはテレビとは傾向を変えています。一部の写真/動画プレーヤーアプリ(TOSHIBA Media Player by sMedio TrueLink+、Windows Media Player)では、これまでテレビ/PCで培った超解像技術『Resolution+」技術(記憶色補正を含む)によって、より鮮やかに見せるモードも搭載しています。

 また、Resolution+の新機能として『テクスチャエンハンスメント』も採用しています。高解像度ディスプレーとはいえ、ディスプレーより写真のほうが解像度が高いため、そのまま表示すると細部の模様が失われてしまうので、本技術により細かい部分を復元して表示しています。微細な模様や手触り感を高めるために、細かな部分を復元して表示するのです」。

プラットフォーム&ソリューション開発センター プラットフォーム・ソリューション設計第一部 高山 俊輔氏

 こうした工夫の結果、KIRAはハード・ソフト・性能の3点において、「単なるUltrabook」とは違う感触を実現している。むしろ、Windows 8がまだ日本語のレンダリング品質や高解像度対応も含め、KIRAのような「クオリティの高いデバイス」に対する配慮が甘い……という印象を残した。マイクロソフトは、年内にも登場するといわれる「Windows 8.1」(Windows Blue)で、こうした部分に手を入れてくるだろうか?

 東芝が投げた「渾身の球」は、そんなことを考えたくなるほどの内実を備えている。開発スタッフの努力と意欲があったからこそできた、文字通りの「労作」だ。

主なスペック
製品名 dynabook KIRA V832 dynabook KIRA V832 Webオリジナルモデル
価格 オープンプライス(店頭想定価格17万円前後) オープンプライス(オフィスあり店頭想定価格19万円前後、オフィスなし17万円前後)
CPU Intel Core i5-3337U(1.8GHz) Intel Core i7-3537U(2GHz)
チップセット Mobile Intel HM76 Express
メインメモリー 8GB
ディスプレー(最大解像度) 13.3型ワイド(2560×1440ドット/WQHD)、静電式タッチパネル(10点)
グラフィックス機能 Intel HD Graphics 4000(CPU内蔵)
ストレージ 128GB SSD(128GB×1) 約256GB SSD
光学式ドライブ
通信機能 無線LAN(IEEE 802.11b/g/n)
インターフェース USB 3.0端子×3、HDMI端子、Bluetooth 4.0、92万画素ウェブカメラ、WiDiなど
ブリッジメディアスロット SDメモリーカード対応
テレビ機能
サウンド機能 harman/kardonステレオスピーカー、dts Studio Sound
本体サイズ/重量 約幅316×奥行き207×高さ9.5〜19.8mm/約1.35kg
バッテリー駆動時間 約9.5時間
OS Windows 8(64bit) Windows 8 Pro(64bit)
オフィスソフト Microsoft Office Home and Business 2013 Microsoft Office Home and Business 2013/なし
主要ソフト Adobe Photoshop Elements 11/Adobe Premiere Elements 11

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