「満足」のために開発工程から見直し
KIRAは、高解像度液晶搭載の「dynabook KIRA V832」と、一般的な解像度の液晶でありながら、バッテリー動作時間を約13時間まで延ばした「dynabook KIRA V632」の2モデルが存在する。基本的なデザインは同じで、ディスプレーデバイスを中心とした「製品としてのバランス」が異なる製品になっている。だが、それぞれが狙ったことは同じである。
商品統括部 コンシューマPC商品部 主務 高草木将彦氏 「今のPC市場を見ますと、低価格化が進んでいます。正直なところ“安くないと売れない”という風潮があるもいえます。そんな潮流の中、国内のみらなず海外のPCメーカーとの競争もますます激化し、事業環境は厳しくなっています。
コストが重要視されることは多いのですが、それとは別にユーザー視点に立った商品企画に今一度立ち返る必要があるのではないかという疑問もありました。満足していただけるような製品を作らないと、お客様が離れてしまうのでは、と我々は考えました。そこで“満足”とは何だろうと考えたわけですが、それは何年経っても『買って良かった』とお客様に思っていただける商品にすることだ、という結論に達し、スペックでは表せない「作りこみ」にこだわろうということになりました」。
言葉にすれば当たり前のように思うかもしれないが、今のPC業界で、こうした本質に立ち戻るのは簡単なことではない。UltrabookによってモバイルPCの薄型化・高性能化は進んでいるが、一方で価格は下がっている。東芝製品も例外ではない。
その中で、KIRA V632の実売価格は14万円弱で「ちょっと高め」な程度だが、KIRA V832は17万円弱で、同クラスのプロセッサーを使ったUltrabookとしてはぐっと高い。その理由はスペックにもあるが、それだけでなく、デザインも含めた「作り」へのこだわりがある。その裏にあるのは、これまで同社が提供してきたUltrabookに対する、率直な「反省」があった。
デザインセンター デジタルプロダクツデザイン担当 参事 杉山宏樹氏 「デザインの視点で見れば、『簡潔であること』『人に優しい』という点を重視しました。
なぜ簡潔でなければならないのかということについては、これまでの製品に対する反省点があります。要は、作り手の都合でできてしまう形、線が多すぎた。そういった部分を極力廃して、完成品を作りたいと考えたのです」。
それはどこを指すのか? 具体的には、ボディなどの構成のことである。例えば、キーボードのパーツ。アメリカモデルと日本モデルで設計を共通化するために、キーのパーツをボディに組み込む形を採ってきたが、それでは、見た目が最適化されず、美しくない。パーツの合わせ目も、組み立てやすさ重視で位置が決められていた。そうしたことは、ひとつひとつは大きな問題ではない。だが、積み重なると、全体の高級感・仕上がりを損ねる。杉山氏のいう「簡潔」とは、そうした部分での統一感を指した言葉だ。そしてそれは、単なる見栄えだけでなく、使いやすさや持ちやすさを高めることにも繋がっている。
杉山氏 「例えば、パーツとパーツの隙間ひとつにしてもそうです。今回は、ボディの上面の端に継ぎ目がきますが、ここが場所によって継ぎ目の太さが違うようではダメなんです。どう製造して精度を上げるかというところを、製造現場とともに徹底して改善し、コンマ数ミリの単位で同じにしました。ボディは切削加工ではなく、マグネシウム合金のプレス加工です。この作り方でここまでしっかりした精度を出すのは、とても大変なことなんですよ。
最近のUltrabookは、皆同じような形だともいわれます。その中でいかに高級感を感じてもらうか、より薄く見えるようにするかを考えました。例えば、KIRAは本体手前にバッテリーが入っているのですが、より薄型に見えるよう、ここがくさび形になっています。でも、今まで使っていたバッテリーだと、ここに入れると「箱形」になってしまい、薄型にならないんですよ」。
共通ハードウェアセンター メカデザイン技術担当 メカデザイン第二チーム シニアエンジニア 立道篤史氏 「こうした薄型の製品では、本体内の半分がバッテリーです。これをどうパッケージングするかが問題です。
バッテリーは、容量・厚さを決めることで、パーツとしての面積が決まります。しかし、PC本体の手前側に配置すると分厚く見えるのです。そのためバッテリーについては、バッテリーメーカーにも協力を依頼し、形状を変えました。本体手前の部分が薄くなるようにしているんです。通常は後ろにくるバッテリーの制御基板を前に配置しています」。
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