情報漏洩アプリを“合法”と言い張れる理由
「ば、バイキンとまで言われた……」
「罪もない女子高生のお姉さんたちに情報漏洩アプリを渡し、それを悪用した罪は重いの。覚悟するといいの!」
過去二回の経験からすればここで恐れおののくところだ。だが、
「ふっ、語るに落ちたなマカフィー・ヴィオラ。
我々の作ったアプリはインストールするときに『SNSに登録されているアドレス帳、アルバム情報、GPS情報を収集・公開することがあります』というメッセージが出るようになっているのだ。この文章を読んで『はい』を押さなければインストールできないようになっている」
「そういえばそんな仕様だったねえ」
「つまりアプリの利用者は全員、この規約を了承した上でインストールしたことになるのだ! ユーザが任意で公開した情報を我々がどう利用しようとそれは構うまい!」
「くっ……」
悔しそうに顔を歪めるヴィオラにイチトはさらに続ける。
「さらに、本来謳われている機能はきちんと実装してあるのだ。嘘の宣伝をしたわけではなく、パーミッション画面の内容も本来の機能と矛盾しなければ、ウィルス作成・提供罪としての立件ができないという前例が日本にはあるのだよ!」
「だから『合法』って言ってたんだね」
「そういうことだ。わかったかね、マカフィー・ヴィオラ君?」
全身全霊のドヤ顔であった。
イチトの大人げない態度に蓮は思わずどん引いたが、次の瞬間に目を剥く。
「がふっ」
相槌を打っていただけの蓮はヴィオラの拳の一撃に吹っ飛ばされ、動けなくなった。
「お兄ちゃんたち、キモっ」
ヴィオラは愛らしい顔に冷ややかな笑みを貼り付けてイチトを見つめる。
小生意気な女子高生ならともかく、ロリっ娘に言われるとぐさっときた。
「本当の目的を伝えずにアプリをインストールさせたんだから、詐欺みたいなものなの。もしも情報漏洩が原因で実害が生じたら、賠償させられる可能性は今でもあるの。それにパーミッション画面の有無は必ずしも万能ではないの」
「し、しかしこのアプリは違法では……」
「罪はアプリにではなく悪用した人間にあるの。プログラム自体が罪だというなら、世界でいちばん損害を出しているのはWin●owsかL●nuxなの」
「……た、確かに」
気圧され、イチトたちは思わず後ずさった。
「それにお兄ちゃんたち、忘れてるの。お兄ちゃんたちは女子高に忍び込もうとしたの。ウィルス作成罪には問われなくとも、不法侵入の罪にはなるの」
そしてヴィオラが取り出したのは、何本もの医療用のメスだった。
薄い刃が月と星のかすかな明かりを受けて鋭く輝く。
「ま、マカフィー・ヴィオラよ、貴様の考えは甘いぞ!? このジルベールはいかなる苦痛にも耐えられる鋼の心の持ち主なのだ! ついでに今回の案を考えたのもこいつだ!」
「いやだわリーダー、責任転嫁だなんて」
「うるさい、私だって痛いのは嫌なのだっ」
言い争うイチトたちの前でヴィオラはしゃらっとメスを両手に挟んで構え、
「大丈夫、一発で殺ってあげるから痛みを感じる暇もないの。肘の内側とか太腿の内側とかは急所だから、そこだと動脈をすぱっと斬れるの。頸動脈は血がぶわーっと噴き出るから後始末が面倒なの」
「い、痛みを感じる暇もない……そんな、無念……」
「ひいいいいいいい!?」
──こうして、今回も悪は滅びた。
「ううっ、メスですぱすぱ……痛い……」
「リーダー、頼むからそろそろ泣き止んでよ……自業自得なんだし」
「今までは打撃の痛みこそ至上と思っていたが、斬られるのもそれはそれでありであった。ただ、加減が難しいのが難……」
「こっちは新たな世界に目覚めたあああああ!」
「次こそ、次こそは痛い思いをしないように頑張るぞ……」
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