2013年5月6日の午前9時(太平洋時間)、インテルは突如として“Intel Next Generation Low Power Micro-Architecture”なるウェブカンファレンスを行ない、ここで“Silvermont”として知られる次世代Atomのアーキテクチャーや特徴についていくつかの情報を公開した。今回はこの情報を説明したい。
スマホ、タブレットだけでなく
車載機器や組み込み向けの市場を狙う
まず総論とマーケットの話である。事前情報にもあったように、
- Out-of-Order(複数の命令を、順番に関係なく次々と実行すること)を実装
- 最大8コアの構成。コア間はファブリックで結合される
といった特徴に加え、
- 新しいIA命令を搭載
- 省電力性を強化
- Fast standby entry/exit
といった項目が追加されているのがわかる。この新しいSilvermont世代をインテルはどの市場に投入するのかを示したのが下の画像だ。
要するに「全部」である。“From TERAFLOPS to MILLIWATTS”(性能がテラフロップス級の用途から、消費電力がmWの用途まで)という標語を見ると、インテルは実に諦めが悪いというか、しぶとい会社であることを再確認できる。ただ今回は、旧来のAtomをベースに幅広い市場に参入しようとして失敗してきた経験を生かしての再参入だけに、それなりに勝算があっての話ではある。
このうち、組み込み向けやサーバーはまた別に議論するとして、当面の主戦場であるモバイル向けのCoreシリーズとの違いを示したのが下の画像だ。
Silvermontはスマートフォンからタブレットがメインで、一部コンバーチブル型を狙うあたりに位置付けされる。では一方のサーバーや組み込み機器系ではどうなるのか、資料を確認してみよう。
IVI(In-Vehicle Infotainment:車両に搭載される情報/エンターテイメント機器)というのは、カーナビを含むコンソールのこと。日本ではまだ例が少ないが、米国だとRV車の後部座席には独立したコンソールが用意され、ここでDVDなどを再生できるというものが珍しくない。こうした用途では性能よりも低消費電力性や低価格性が求められる。
なぜ低消費電力性が必要かというと、なにしろ後部座席向けのコンソールは前部座席のヘッドレスト/シートバックの裏側、あるいは天井などに取り付けるため、凝った放熱機構は設けにくいうえ、薄型であることが求められる。ここで消費電力が多いと、液晶の表示部と本体を分離して、本体をどこか別の場所に搭載することになり、価格面で著しく不利になる。また車の中はうっかりすると50度近くになることもあり、こうした温度環境でも動作するためには、そもそも発熱が多いCPUでは不利になるからだ。
Embedded(組み込み機器)としても、デジタルサイネージ系の場合、高機能、大画面の代わりに高価格のもの以外に、低機能でそこそこの画面サイズの代わりに低価格という需要はかなりあるため、こうした部分にはAtomの方が向いているという判断であろう。

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