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大谷イビサのIT業界物見遊山 第3回

EMC World 2013の目玉製品を読み解く

ViPRはEMC自体にも鎌首をもたげないのか?

2013年05月10日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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EMC World 2013で鳴り物入りで発表されたストレージ管理プラットフォーム「ViPR」。Viper(毒蛇)からもじったインパクトのある製品名だが、正直「地味」という印象はぬぐえない。とはいえ、トップストレージベンダーのEMCがやるからには、それなりのインパクトはある。

ViPRはやや地味なスーパーヒーロー

 オオタニがEMC Worldに参加するのは、昨年に引き続いて2回目となる。昨年は新製品やアップデートの数を競うかのようにアピールしていたが、今年はViPRやPivotalなどややコンセプチュアルな話のほうがメイン。実際、Pivotalに関するポール・マリッツ氏の講演は、自分が投資家だったらお金出してしまおうとかと思うくらい濃厚だった。まあ、メディアとしては、XtremIOブランドのオールフラッシュストレージをEMC World 2013の会場で本格デビューさせ、ボトルネックを解消するスーパーヒーローとして登場してくれた方がありがたかった。新製品のリリースは別の機会に見送られたらしいので、そちらに期待しよう。

 一方、初日の基調講演で大々的に紹介され、IT管理者の悩みを解決する“スーパーヒーロー”と持ち上げられたViPRだが、EMC World 2013の看板商材として打ち出すには正直「地味」という印象はぬぐえない。

 ViPRについてはすでに2本記事を書いたが、正直製品の存在意義もやや見えにくいと感じた。そもそも“以前の”ネットアップのように単一プラットフォームで製品ポートフォリオが構成されていれば、異機種ストレージのように新たに管理レイヤーを設ける必要はない。つまり、異なる種類のストレージを管理できるというのは、「One Size Fits All(1つの製品ですべてのニーズを満たす)」の戦略をとっていないEMCならではの事情から生まれたメリットとも言える。その意味で、当初はEMCユーザー向けの限定的な商材になるはずだ。

 また、Software-Defined Storageを持ち出さずとも、異ベンダー間のストレージ仮想化であれば、すでに他社から似たような製品が提供されている。そもそもレイヤーが増えるということは、オーバーヘッドも増すことを意味しているわけで、それ相応のメリットがなければ、導入はしにくいだろう。

 そして、肝心なのは1本目のレポートでも書いたとおり、さまざまな性質のストレージ製品を持つEMCとして、サードパーティやコモディティ製品を許容するのかという点だ。ワークロードにあわせて最適なプロビジョニングを行なえるというのは確かに魅力的だが、裏を返せば要件を満たせばハードウェアは問わないということになる。極論してしまうと、要件とポリシーを満たせば、ViPRがEMCストレージではなく、他社ストレージをばりばり使ってしまうということになりかねない。その点、ViPRはEMCに向けて“鎌首をもたげる存在”になる懸念はある。

 コモディティ製品に関しても同じだ。ViPRから見れば、サーバーのディスクボリューム、コンシューマー系NASも同じように扱えるはずなので、安価なサーバーを束ねてリソースプールを作るというサービスプロバイダーの志向をますます加速するかもしれない。現に、Amazon S3のようなクラウドサービスでは抽象化された世界が実現されており、ストレージとはI/O要件やコストなどの要件で調達するリソースに過ぎなくなっている。

敵はコスト削減圧力とビッグ&ファストデータにあり

 とはいえ、ViPRが生まれた背景やEMCに与える影響を考えると、それなりに注目すべき製品であることは間違いない。基調講演でEMC CEOのジョー・トゥッチー氏はオラクルとの差別化について、オープンな水平分業であることを明言している。一人勝ちを目指すのではなく、仮想化レイヤーを解放し、統合管理できた方がよいし、クラウド時代にもマッチする。実際、増え続け、多様化し続けるデータの格納場所をEMCだけでまかなうのはもはや不可能で、他ベンダー製品やコモディティハードウェアに門戸を開いておくことが判断したとしても不思議はない。

 その意味で、もはやストレージベンダーとしてのEMCの敵は、ネットアップやIBM、HP、オラクルなどのベンダーではなく、サービスプロバイダーからのコスト削減圧力や予想以上のスピードで拡大するビッグ&ファストデータなのかもしれない。そう考えると、1200人を超えるエンジニアと虎の子であるポール・マリッツ氏、リッチな買収資産を投じたPivotalへの注力も納得がいく。既存のストレージや仮想化のビジネスを守るだけではなく、クラウドとビッグデータ分野であえて火中の栗を拾おうとする同社の姿勢は、まさに「TRANSFORMATION」と言える。


筆者紹介:大谷イビサ

 

ASCII.jpのTECH・ビジネス担当。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、日々新しい技術や製品の情報を追う。読んで楽しい記事、それなりの広告収入、クライアント満足度の3つを満たすIT媒体の在り方について、頭を悩ませている。


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