新キャラ、登場早々にマルウェアを仕込む
生徒はみな政治家や財閥のご令嬢、幼稚園から大学までの一貫教育で淑女を育成──そんな世の男性の憧れの的・白薔薇女学院のほど近くに、一軒の喫茶店がある。
今はその店内にはお嬢様女子高生のほか、数名の客がいた。
「うふふふ、あそこにいるのが今回のワタシのターゲットたちね。ああん、もう、あの子もこの子も食べちゃいたいくらい可愛いわあ」
と、彼女の手にしていたスマートフォンがぴろりろと鳴った。彼女はメールの文面を手早く確認し、
「……まったくもう、男ってせっかちなんだから。
ま、──それじゃ、行ってこようかしら」
◆
「ごめんなさいね、ちょっとここ宜しいかしら?」
お茶やお菓子を前にわいわいと盛り上がっていた女子高生二人組は、話しかけられて慌てて顔を上げた。
見れば彼女たちの鞄のせいで人が通りづらくなっている。
「あっ、すみません。……鞄をどかします、どうぞ」
「ありがとう。こちらの席に失礼するわね」
礼とともにその女性は女子高生たちのもとを通り過ぎ、隣の席に腰を下ろす。
と、その動きとともに女性としてはやや太めの喉元が見えた。
「え、あれ、男の人……?」
「しっ! 思ってもそういうことは言わないの!」
二人組のうちの一人が目を丸くし、もう一人が慌てて叱咤する。
しかし女性は特に怒ることもなく、鷹揚に笑って見せた。
「あら、いいのよ。驚かせてごめんなさいね」
「す、すみません! お姉さんがあんまり綺麗だからびっくりしちゃって」
「あらあら、ありがとう。嬉しいわ」
その笑顔と名だたる女優もかくやという美貌に、同性……とも言い難いが、女子高生二人はぽうっと顔を赤くして彼女を見つめた。
「お、お姉さん、お名前はなんて言うんですか? もしよろしければ……」
「マリアっていうの。よ・ろ・し・く」
◆
その様子を、同じ喫茶店に一同は身を潜めてこっそり見つめていた。
「新メンバーって、オカマキャラかよ!?」
「ですがリーダー、今やオネエ系は女性にも人気があるとも言いますし、あれはあれでありなのでは」
「ふん、あんな年増が仲間だなんて僕はっ」
「それに10分足らずでターゲットと親しくなるとはなかなか……」
「しっ、静かに。奴がまた行動を起こしたようだ」
◆
「マリアさん、あたしちょっと用事すませてきますね」
「私もー」
「はいはい、行ってらっしゃい。お留守番してるわ」
席を立った女子高生二人を、マリアはぱたぱたと手を振って見送り──そしてにやりと人の悪そうな笑みを浮かべた。
「ふふん、油断大敵よ、お嬢さんがた」
そして、あろうことかマリアは女子高生が置いていった鞄の中を勝手に探り、彼女たちのスマートフォンを取り出してしまった。
さらにそれらを勝手に操作し、アプリケーションをインストールしていく。
「せめてパスワードは掛けておかなきゃね。もちろん気づかれないようにアプリを入れるだけじゃなくて個人情報もしっかりいただいていくわ。
ふふっ。こんなミッション、ワタシにかかれば朝飯前よ!」
【首を傾げる女子高生たち】
「ハァイ、また会ったわね」
「マリアさん!」
数日後、女子高生はふたたびマリアの顔を見つけて歓声を上げた。
「どうしたの、浮かない顔して。そんな顔してたらせっかくの美人が台無しよ」
「そんな、美人だなんて……。それが、最近ケータイの様子がなんだかおかしいんです」
「あらあら」
マリアは内心ほくそ笑みながらも、あくまで心配そうな表情をして見せた。
「メールを見るにもゲームをするにも、いちいち時間がかかるんです。前はこんなことなかったはずなんですけど……」
「古い機種だからじゃないの?」
「それにパソコンのほうにも変なメールが来るようになっちゃって。添付写真を開こうとしても、何も表示されないんです」
「まあ、それはストレスね。
そうね……まずはケータイやパソコンを再起動してみて、いらないアプリやファイルを消してらどうかしら」
「マリアさん、パソコンとか詳しいんですか?」
「ひととおりはね。ワタチたちの『業界』はハイテクなのよ?」
言ってウィンクしてみせると、女子高生は「きゃー!」と黄色い声を上げた。
「パソコンはわかりますけど、ケータイも再起動ってできるんですねー」
「もちろんよ。ここの電源ボタンを押してね……」
◆
「ふっふっふ、だがしかし、ひそかに仕込まれたマルウェアは再起動したくらいではびくともしないのだった」
その様子をやはり影から見つめるイチトのナレーションである。
「なにしろ我々はセキュリティソフトを入れろとは一言も言っていないからな!」
「あ、勝手に僕たちの手柄にした。大人って汚い……」
「黙れ!」
<第4話へ続く>
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