メーカーや通信キャリアとはどう向き合って行く?
―― 2月に発表されたNokiaとの業務提携もインパクトがありました。
舛田 「LINEがプリインストールされた新興国向けの低価格スマートフォン「Asha(アシャ)」の出荷が始まっています。出足も伸びていますし好評です。
アプリマーケットの利用がそれほど普及していないユーザー層にもLINEの利用を広げることができますので、とても良い提携になったと感じています。グローバルブランドのNokiaとパートナーになったというのも今後の展開においても大きいですね」
―― Nokiaにとってのメリットはどこにあったのでしょう?
舛田 「Nokiaさんにとってもスマートフォン・メッセンジャーが重要になるなかで、Symbian端末ではLINEが動作しないことがデメリットになっていました。今回のパートナーシップによって、他のフィーチャーフォン同様、無料通話ができない/プラットフォーム機能がない限定版ではありますが、提供が進んでいます」
―― 通信キャリアとの向き合いという観点では、Tizenなどキャリア主導のモバイル新OSへの対応などは考えていますか? Windows 8への対応はとても早いものでした。当然、各所から要請は来ているはずですが……。
舛田 「いろいろなところからご相談はいただいていますが、Firefox OSなども含めて、そこは“見ている”という段階ですね(笑)。本来はすべてのOSに対応するのが私たちの理想でもあるのですが、山ほどプロジェクトが動いている現状ではリソース配分に限界があります。
iOSとAndroid OSというネットプレイヤーによるプラットフォームの寡占から、キャリア・メーカー主導の別のエコシステムを作るという考えは理解できますので、そこを目指すためのどんな戦略が示されるのかを待っています。
ブラウザーベースのオープンな世界になるということで、これまでと違うものにはなるだろうという期待はしています」
―― ちなみに、分社化によって開発リソースには変化があったのでしょうか?
舛田 「ゲームの開発部門は新NHN Japanに移りましたが、それ以外は変わりありません」
―― OTT(Over the Top:Google、Facebookなど圧倒的な影響力を持つウェブサービスを指す)の代表例にも挙げられるLINEですが、海外も含めた通信キャリアとの今後の向き合い方についても聞かせてください。先日、Facebook Homeが公開されましたが、ああいったホーム画面をある意味乗っ取るというスタイルに比べると、LINEは先ほどのNokiaの例のように柔軟な対応を取っているようにも見受けられます。
舛田 「キャリアの皆さんがいないと、我々はサービスもできませんので、継続的・発展的な関係を今後も作っていきたいと思っています。国内ではKDDIさんがその先例となりましたが、現在他のキャリアさんとも、通信量の負荷軽減や未成年対応など話をさせていただいています。
そういったテーマや、LINE公式アカウントへのご参加を通じて関係構築はできているとも言えると思います。共存共栄に近くなっているかなと。LINEというOTTがあることで、LINEを通じてこれまでアプローチしづらかった他の2キャリアのお客さんにもアプローチができるわけですから。
Facebook Homeが発表されてからというもの、繰り返し『LINE Homeは出さないのか?』と尋ねられていますが、『何も考えていません』というのが正直なところです」
―― 特に海外への展開を考える際、先ほど話題に上がったプラットフォーム展開を推し進めるためには、(かつてiモードが実現できなかった)海外キャリアの買収という手法も取るべきであったりはしませんか?
舛田 「いまのところ、海外のキャリア(オペレーター)から、我々が進めるプラットフォーム展開に対して、自社のそれと競合するのでNoだという話は出ていません。そんなことを言い始めたら、それこそGoogleなど他のサービスもそうだということになってしまいますからね。したがって『キャリアに出資しなければ……』ということはありません。
iモードはキャリア自体が輸出をしようというサービスでしたが、我々はアプリベンダーであり、OTTですから、どこか1つのキャリアに出資するというのはリスクにもなり得ます。iモードのときとはそこが大きく異なります。
例えば決済の部分を、auのスマートパスのようにローカルのキャリアと組んで行なっていくことで、お互いにメリットがある枠組みを作っていくということは今後出てくると思いますが。
また、例えばオンライン・モバイル決済がまだ整備されていない新興国では、現地パートナーの協力を得てプラットフォームを構築していくことになるでしょう。
我々としては、キャリアの上に覆い被さるというよりも、LINEというそれ自体がプラットフォームになったものの上に、別のサービスをいかに乗せていくことができるか? つまり、LINEチャンネルをどう発展させられるか、というのが海外も含めて今年の大きなテーマになっていきます」
◆
国内ではほぼデファクトともいうべき存在になったLINEだが、今回の話にあったように、海外には競合も多く、市場環境も異なる。LINEにとって今年は日本での成功を海外に拡げることができるのか、舛田氏をはじめとする新生LINEの力が問われる一年となるはずだ。
この連載の記事
-
第102回
ビジネス
70歳以上の伝説級アニメーターが集結! かつての『ドラえもん』チーム中心に木上益治さんの遺作をアニメ化 -
第101回
ビジネス
アニメーター木上益治さんの遺作絵本が35年の時を経てアニメになるまで -
第100回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』で契約トラブルは一切なし! アニメスタジオはリーガルテック導入で契約を武器にする -
第99回
ビジネス
『THE FIRST SLAM DUNK』を手掛けたダンデライオン代表が語る「契約データベース」をアニメスタジオで導入した理由 -
第98回
ビジネス
生成AIはいずれ創造性を獲得する。そのときクリエイターに価値はある? -
第97回
ビジネス
生成AIへの違和感と私たちはどう向き合うべき? AI倫理の基本書の訳者はこう考える -
第96回
ビジネス
AIとWeb3が日本の音楽業界を次世代に進化させる -
第95回
ビジネス
なぜ日本の音楽業界は(海外のように)ストリーミングでV字回復しないのか? -
第94回
ビジネス
縦読みマンガにはノベルゲーム的な楽しさがある――ジャンプTOON 浅田統括編集長に聞いた -
第93回
ビジネス
縦読みマンガにジャンプが見いだした勝機――ジャンプTOON 浅田統括編集長が語る -
第92回
ビジネス
深刻なアニメの原画マン不足「100人に声をかけて1人確保がやっと」 - この連載の一覧へ