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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第36回

LINE執行役員・舛田淳氏インタビュー第2弾

1億人のその先へ――LINEの海外展開の実情を聞く

2013年05月03日 11時00分更新

文● まつもとあつし

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日本での勝ちパターンが通用しない国の攻略法は?

―― LINEが国民的アプリとなっているタイ・台湾に続き、最近、中国のApp StoreでLINEが1位になったと報じられました。しかし、海外ではLINEの勝ちパターン、つまり無料通話・メッセージという強みが、必ずしも成立しないのではないかという点についてはいかがでしょうか?

舛田 「中国の件は、Androidのシェアが高いことや、非公式のアプリマーケットを利用する人が多いこともあり、正直、限定的な市場での瞬間最大風速的なものだと捉えています。

 中国にはTencent(『WeChat』*を展開)という、いわばモンスターがいますので、我々など存在しているか、いないかくらいの規模でしょう(笑)」

*中国のIT企業Tencent(テンセント)がLINEの半年前から開始した無料通話・メッセージアプリ。英語、中国語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語、ポルトガル語など18言語に対応し、ユーザー数は3億人を超える。

―― 難易度が高い市場という意味では、パケット定額制が中心ではない北米市場もあります。そしてヨーロッパでも大きなシェアを持つWhatsApp*が控えています。

*2009年にアメリカで生まれたメッセージアプリ。年間99セントの利用料が発生するが、月間のアクティブユーザーは2億人を超える。ラテンアメリカやドイツ、シンガポール、香港などで人気が高い。

舛田 「そうですね。中国と並び難易度ツートップと言えます(笑)。

 ただ、アメリカといっても広いですし、多民族国家です。北米でのLINEの数字は少しずつ伸びていて、例えばスペインでの人気が、北米のスペイン系の方々につながって利用が広がったり、スペイン語圏であるメキシコでも支持が拡がっています。当然、私たちが強いアジア圏からの影響もあります。

 ただ、そこにばかり頼ってはいられませんから、スターマーケティング(有名人を起用した広告宣伝)や、特定のユーザー層・エリアに絞った展開も検討しています。

 その際、通話を強調するのか、メッセージを推すのかでも手法が異なってくるでしょうね。従量制の国なので、データ量とそれに対するコストパフォーマンスという面が大きな意味を持つはずです」

今後は中国のWeChat、そして米国のWhatsAppと鎬を削ることになる

―― 別のインタビューで「(中国と米国は)メインディッシュみたいなもの」とも述べていらっしゃいました。

舛田 「市場規模、成長力、経済力という意味からも大きいですからね。“そこで勝つ”という象徴的な意味もあります。我々が存在感を示せれば、さらに色々な展開が可能になるはずです。しかし、まだ我々は言わば“前菜”の段階なので、まだまだ遠い道のりです」

グーグルが買収? ライバルをどう見るか?

―― 世界のアプリランキングを見ると、WhatsAppが席巻しており、そしてグーグルが買収するのではないかという観測もあります。これについてはいかがでしょうか?

舛田 「すごい金額が報じられていますよね。その記事でLINEがライバルとして取り上げられていたのは、光栄でした(笑)。

 じつはもともと台湾やタイなどでもWhatsAppが大きなシェアを持っていたんですね。現在のところ少額ではありますがWhatsAppは、LINEとは異なり有料アプリです。その違いは大きいと思っています。

 LINEの人気が高まっているスペインでも、ユーザーレビューを見ると、『LINEならPCでも使える』『安定しているし反応が早い』『無料だし電話もできる』というご評価をいただいています。個別の機能差というよりも、全体としてのユーザー体験で比べていただいた結果、LINEを選択するという例が増えているように感じています」

―― しかし一般的には、LINEのようにネットワーク外部性の強いサービスでユーザーに乗り換えを促すのはなかなか難しいとされます。

舛田 「仰る通りですね。そこで“体験”という言葉を使わせていただきました。ユーザーは明確に機能差を認識しているわけではありません。“より楽しく、快適に使える”という2つの要素でしか評価されておらず、それにLINEは応えられているから支持されていると捉えています。

 正直に言えば、WhatAppはもちろんウォッチしていますが、では対抗して……という風にはあまり考えていません。

 何かと比較してということではなく、コミュニケーションプラットフォームとしてのLINEには、まだまだ足りない部分が沢山あって、それを実現していくほうに注力しています。かつては競合分析も精緻に行なったこともありましたが、いまはユーザーのちょっとした反応・コメントに隠されたヒントや我々自身のアイデアが羅針盤になっています」

―― とはいえグーグルが買収すれば、WhatsAppも攻勢を強めてくると思いますが、大丈夫でしょうか? たられば、の話になってしまいますが(笑)。

舛田 「たられば過ぎますね(笑)。それでもあまり気にしないと思います。

 そうなったとして、我々が特段どうこうできるものでもないと思いますし、またプラットフォームやサービスを買って、そのまま活かすのって、我々自身も経験していますが、なかなか難しいんですよ。

 LINEにも『こんなサービスを買いませんか』という提案がよく持ち込まれます。しかし、単純に足し算にしたり、活かし切ることは容易ではありません。LINEはつま先から頭まで一本筋が通っていて整合性がとれていることが強みですから。

 とすれば、逆にそうなった(グーグルがWhatAppを買収した)場合、LINEにとっての新たなチャンスになるかもしれません。社内でもよく言っていることなんですが、市場が動くことは、我々にとって戦略上のチャンスなんです」

Googleが巨額買収するとの噂もあるWhatsApp。しかし、そんなときこそLINEのチャンスになり得るという

―― 確かに、MicrosoftがSkypeを買収し、Messengerを統合しましたが、いまのところLINEのライバルという存在にはなっていないことにも重なります。とはいえ、Yahoo!のカカオトークでの展開のように、無料通話・メッセージアプリを、スマートフォンでの自社サービス利用のポータルにしようという動きはこれからも強まっていくはずです。そこにリスクは存在しませんか?

舛田 「当然そういった動きは続くでしょうし、我々が2年前に思い描いた未来図の通りになっていますね。とはいえ、ビッグプレイヤーがそこに対して動いたからといって覇権がすぐそこに移るかといえばそれは簡単ではない。

 GoogleやApple、Microsoftがすべての覇権を取っているわけではないし、最近は『LINEでやれば必ず成功する』と言われたりしますが、本当にそうなら私なんて寝ていても構わないはずですよね(笑)。

 結局のところユーザーにとって価値があるか否か、というシンプルな理由で支持・不支持が決まり、ビッグプレイヤーかどうかは関係ないんです。これは、私も長年この業界に関わってきて痛いほど実感しましたから」

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