キリンを飼っている家にも泊まれる。「Airbnb」(エアー・ビー・エヌ・ビー)は、自宅の部屋を宿泊施設として貸し出せるオンラインマーケットプレイスだ。
2008年に創業し、4年間で非上場ながら評価額は10億ドル(約969億円)に膨れあがった。世界192ヵ国、3万都市に26万件の登録物件を持ち、2012年6月には通算で延べ1000万泊を達成した。現在、世界10ヵ所の拠点を持ち、550人の社員を抱えている。
最高責任者はブライアン・チェスキー。1981年、ニューヨーク生まれの31歳だ。27歳のときサンフランシスコで「Airbnb」を設立した。そのときの所持金はわずか1000ドル。共同経営者が借りたアパートの家賃はあろうことか月1150ドルだった。そのままでは起業どころか、家賃の滞納で追い出されてしまう。
ブライアンはちょうどそのとき、サンフランシスコで国際的なデザインカンファレンスが開催予定であることを知る。そこで周りのホテルが満室状態だったことから、自分たちの部屋をカンファレンスの参加者に貸し出すことにした。いささか伝説的ではあるけど、これがAirbnb起業のあらましだ。
アナログ経済を破壊して
デジタル経済で再発明
「ぼくたちは新しい経済を作っていると思っているんだ。"シェア"って形でね」
ブライアン・チェスキー氏は16日、ホテルニューオータニで開催された「新経済連盟サミット」でそう語った。Airbnbに載っている宿泊先はすべて個人の家だ。ハーバード大学の教授が娘のためにつくったツリーハウスや、ドイツのわずか1平方メートルの家まである。いわば、Webを介した"シェアハウス"だ。
サービスが使われている理由は、宿泊先の値段がホテル業界の平均価格よりもはるかに安いから。個人と個人をWebで結ぶ「直接経済」で、業界の価格を破壊した。アマゾンCEOのジェフ・ベゾスがネットの世界で小売業を再発明したように、ブライアンは宿泊業を再発明した。アマゾンによって小売業界が破壊されたように、Airbnbはホテル業界を破壊して成長しているのだ。ブライアンは言う。
「ホテルチェーンは世界に50万部屋があるかもしれない。でも、ぼくたちはたった4年で10万部屋。きっと、あと数年で抜いてしまうんじゃないかな」
成功に必要なのはアイデアを信じるタフな精神
ただし、ブライアンはいきなり成功したわけではない。
「アイデアを持ち込んで投資先を探したけど、全社から『このアイデアには投資できない』と断られた。『自分の家に知らない人を泊めると思う?』『そんなバカなアイデアを聞いたのは初めてだよ』。クレジットカードも止められた。野球カードみたいにカードホルダーいっぱいのクレジットカードを集めたときもあったよ」
それでもブライアンはあきらめることなく投資家を探しつづけた。「必ず誰かが使ってくれる」と信じたからだ。Airbnbを軌道に乗せる前には、ケロッグのようなシリアルを作って売り、糊口をしのいだ時期もあったらしい。シリアルはちょっとした人気になり、合計3万食を売り上げたという。ブライアンは肩をすくめる。
「ま、起業家ってのはそういうものじゃない?」