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最新ハイエンドオーディオ、本当のところ 第1回

バランス駆動に対応した、ラックスマンのフラッグシップHPAを徹底試聴

P-700uほか、総額約100万円でヘッドフォンの世界を堪能した (4/5)

2013年06月16日 09時00分更新

文● 編集部

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ハイエンドになればなるほど真価が分かるP-700u

 まずは従来機種のP-1uとP-700uの比較から。D-06と接続し、アンプそのものの進化度合いを比べてみる。試聴してみて改めて感じたことだが、P-1uはこれまでラックスマンの最上機種を担ってきたということもあり、十分に高い完成度を持っている。聴いた機器の組み合わせ(とソース)では、ヘッドフォンそのものが素直で鳴らしやすいということもあり、SRH1840クラスでは差をあまり意識せず聴くことができた。

音量調整に使用するアッテネーターには電子制御のLECUA(Luxman Electric Controlled Ultimate Attenuator)を搭載。高級プリメインアンプ向けに培ってきた技術で、P-700uで初めてヘッドフォンアンプでも採用した。滑り止め用にローレットを刻んだ高品位な仕上げ。

 とはいえHD700クラスまでクラスが上がると、如実な差が出てくるのも確かで、ハイエンドになればなるほど、アンプの違いに敏感に反応するのが分かる。P-700uにはSENSITIVITYの調整機能が付いているが、標準の位置ではP-1uよりちょうどボリューム一目盛りほど大きな音で鳴った。

インピーダンスの異なるヘッドフォンに対応するための感度調整、左右のバランス調整にもLECUAが使用される。

 HD700を中心に比較すると、例えばカリフォルニアの風の1曲目(カリフォルニアの風)の冒頭部分で、明確にトレースできるベースの質に差を感じた。スターダストの6曲目(I'll wait for you:シェルブールの雨傘)でも、楽器の音色が明確に描き分けられて、空間の奥行きが増す。広域はよく伸び、トランペットなどブラス系の音のハリ、ピアノのアタック感といった部分もより明晰となる点はさすがだ。

 ピアソラへのオマージュでは10曲目(エル・ソル・スエニョ)。冒頭部分、静けさの中からバツンと浮かび上がる打楽器のアタック感、遅れて入ってくるダブルベースのブイーンとした質感が印象的。低音から高音までフラットでバランスがよく、個々の音も明瞭で彫琢がハッキリする。3曲目(オブリビオン)では、まず幽玄な空間の中にぼんやりと浮かび上がるベースとピアノの調和感が秀逸だ。1:20付近、バイオリンのノイジーなクレッシェンドをバンドネオンが引き継ぐフレーズでは震えるようなバイオリンの細かな表現をきちんと拾っていた。1:37~1:45付近ではTuttiの部分も、S/N感が高いからよりダイナミックな印象になる。

 Shiro SAGISU Music from“EVANGELION 3.0”YOU CAN(NOT) REDO.では7曲目(Quatre Mains)のピアノを聴く。シンプルに言うとP-700uはリアルさ、P-1uはダイナミックさという方向感だ。P-700uは早いパッセージでも音が粒だち、自分でピアノを弾いているときの感覚に近い。装飾音符の細かさなどは唖然とするほどだ。一方でP-1uは、ホールなどステージから少し離れた客席で演奏を聴く感覚。粒立ちはまぎれ、一歩引いたような雰囲気が出る。

 

バランス駆動は圧倒的な解像感

 次にP-700uのバランス駆動とアンバランス駆動の差について聞き比べてみよう。

 SRH1840のケーブルをバランス駆動用に変更してみると、空間表現・音の密度感などの向上を実感できた。これは主に低域の改善によるものだろう。

 ガールズ&パンツァー オリジナルサウンドトラックの1曲目(戦車道行進曲!パンツァーフォー!)はブラスバンドによるマーチ。軽やかに音が広がる。バランス駆動では、色彩感がより明確だ。アンバランス駆動では気持ち中域の情報量が落ちる印象もあるが、バランス駆動では明確な描き分けだ。実は0:40付近を聴くとトランペットだけ別収録なのではと思うほど残響の表現に違いがある。今回ぐらい上質な機器で音を聴くとそういった部分まで明け透けとなるのは新鮮だった。

価格差があるためか、P-700uは外装もリッチだ。シャーシは3mmベースとかなり厚く、より重厚な作りとなっている。フロントパネルのエンブレムもプリントではなく立体的な仕上げにするなど高品位だ。

 ひかりふるはボーカル曲で、1曲目を聴いた。フィードバックのような揺らぎがバックで流れ、音に包まれていくような感覚を味わえるソースだ。アンバランス駆動ではボーカルの音色がよく、まとまっている印象だが、1:53あたりのアタック感がやや弱く、物足りなさも多少感じる。2:00以降はボーカルに若干キンつきがある印象も。2:45から始まる、後半のクライマックスでは、情報量の不足からか、多少混沌とした雰囲気もあった。

 これをバランス駆動にすると全体に情報量が増える。曲冒頭にごく小さく流れるノイズ的な音の動きも明瞭で、ボーカルは一皮むけた印象になる。アンバランス接続で感じた2:00以降のきつさはなくウェルバランスだ。2:45以降は高域が伸びる。後半に行くにしたがって、特定の帯域の強調がない、調和の取れた音という印象が強まっていく。ただし、このソースでは適度なぼやけがあったほうが粗が目立たず、雰囲気よく聴けるという印象も持った。

 それ以外のソースについて。ピアソラへのオマージュについては、バランス駆動では情報量の高さと明晰さ、アンバランス接続では少し紗がかかったような雰囲気がある。幽玄さを感じさせるソースなので、アンバランス接続の方向感も悪くはない。D-06は暖色系でアナログ的な滑らかさがある。I'll wait for you:シェルブールの雨傘では、バランス駆動で聴くとリズム帯が弾むように前に出てくる。ブラスの音色がとても心地よく、聴感的なS/N感も上がる印象。これは残響など空間表現に関係する要素だ。

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