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背景には技術的問題、それともAppleとの確執か?

新Webエンジン「Blink」—GoogleはなぜWebKitを捨てたか?

2013年04月08日 20時00分更新

文● 鈴木淳也(Junya Suzuki)

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転機を迎えるWebブラウザー開発

 話は冒頭の“振り”に戻るが、Webブラウザー界の2つのメジャーなWebレンダリングエンジンが技術的転換点を同時に迎えた興味深い時期に差し掛かっている。Barth氏がGoogleのBlinkへの移行を表明した4月3日(米国時間)同日、Mozilla FoundationがSamsung Electronicsと共同で次世代のWebレンダリングエンジンとして「Servo」の開発を推進していくと発表した

 Servoの特徴は、同じくMozillaがオープンソースプロジェクトとして推進する「Rust」という開発言語をベースにしたところで、モバイルプラットフォームにおける軽量動作を主眼に置いている点で特徴がある。

 従来のGeckoがC/C++をベースにしたコードで記述されているのに対し、Servoが利用するRustは文法こそ似ているもののマルチスレッド(マルチコア)環境での利用に最適化された仕組みや新しいコンパイラ仕様をサポートするなど、マルチプラットフォーム/マルチコア化が進む現在の環境においてより高いパフォーマンスや安定性を実現する点でメリットがある。

 Servoは当初Android+ARMの環境をターゲットに開発が進められ、Samsungの同プロジェクトにおけるコード貢献の多くもAndroid+ARMに依っている。MozillaがNetscapeから引き継いだGeckoエンジンは今後もしばらくはPCブラウザーとしての主軸を担っていくと思われるが、MozillaとしてはリソースをよりいっそうServo側に振り分けていくことを表明している。

 今後プラットフォームの中心がPCからモバイルへと移っていくことを考えれば、ServoがMozillaにおけるその主役の座へと成長していくのは想像に難くない。なお、ServoはGitHubでソースコードが公開されている。

 一方でWebKitにおいても、技術的見解の相違からApple勢とGoogle勢で新WebKitとBlinkにプロジェクトが分裂したという話だけでなく、Google内部での政治的事情も抱えているとみられる。

 Apple向けの改良を優先するWebKitに対して、Chromeでの変更を自由にWebKitに反映できないジレンマを抱えていたGoogleだが、Blinkへの移行を機に“くびき”から逃れ、「iframeのサンドボックス化」「マルチプロセス対応」といった技術対応に加え、「ポーティングの簡略」「コードのシンプル化による安定性の向上」といった相乗効果が期待できるようになった。

 おりしもGoogleでは、Android開発を率いていたAndy Rubin氏が担当から外され、Android開発チームがChrome開発チームへと統合される形となった。おそらくはかなり近い将来にAndroidとChromeの統合が実施されるとみられ、そうした意味で今回のBlinkへの移行は統合プロジェクトをよりスムーズに進める効果が期待される。タイミング的には好機だったといえるかもしれない。

WebKitとBlink—今後の流れを考察する

 分裂が決定的となったWebKitとBlinkの2つのプロジェクトだが、今後のことでひとつ確実なのは、「Blinkのほうが主流になる」という点だ。現行のWebブラウザーシェアを考えれば当然なのだが、PCでもモバイルOSでもChrome(Android)が主流であり、WebKitは再びシェア1割以下の中堅勢力になるだろう。

 もっとも、Apple自身が招いた結果でもあり、以前のKHTMLのようにBlink側からWebKitにバックポートを行なったり、コードのマージを行なうことは当面ありえないはずだ。どちらもしばらくは独自の道を歩むことになるだろう。

 一方で、心中複雑かもしれないのがOperaだ。Opera Softwareは先日、独自の「Presto」を捨て、同社OperaブラウザーのレンダリングエンジンをWebKitに移行することを表明していた。その矢先の分裂騒動なのだが、The Next Webによれば「OperaはBlinkを採用する」と表明したという。

 今後のトレンドを考えれば、WebKitが主流になることは考えにくいため、あえて茨の道を選ぶよりも、Blinkを採用したほうがメリットがあると考えるのは当然だ。もし今後Operaと同様に他のWebレンダリングエンジン採用を考えるベンダーがいたとして、おそらくはOperaと同じBlink採用を表明すると思われる。

 問題はWebアプリケーション開発者の負担で、今後プラットフォームの数が増えることで、検証の手間が増える問題がある。現状でiOSやMac対応も無視できないレベルのシェアがあり、今後の負担増の一端を負う形になると思われるが、まだ未知数な部分が多い。開発者はGoogleの動向に特に気を配りつつ、各プラットフォームの動きに注視する形になるだろう。


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