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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第197回

チップセット黒歴史 載せたCPUを破壊するVIA KX133

2013年04月08日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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BIOSがアップデートされず阿鼻叫喚

 さて、いよいよ黒歴史の始まりである。2000年6月、AMDはThunderbirdというコード名で知られる新世代のAthlonを投入する。従来との大きな違いは、インテルのCoppermine同様に2次キャッシュをオンダイで搭載したことである。

Thunderbirdこと「AMD Athlonプロセッサー」

 キャッシュ容量そのものは従来の512KBから256KBに減ったが、速度はこれまで動作周波数の2分の1から3分の1(5分の2という組み合わせもあった)と遅かったのに対して同一周波数になり、かつレイテンシーも減ったことでトータルの性能はぐんとあがった。

 さらにK75では動作周波数が最大1GHzだったのに対し、Thunderbirdでは最大1.4GHzまで向上している。こうしたこともあって、K7/K75コアのAthlonを使っていたKX133ユーザーの中には、Thunderbirdコアへの乗り換えを考慮する人が少なくなかった。

 先にも述べたとおり、Socket AタイプだけでなくSlot AタイプのThunderbrid Athlonも同時に発売されたため、BIOSのアップデートが前提ではあるが、CPUだけ差し替えれば済むと思ったわけだ。ところが実際にはBIOSのアップデートは提供されることがなく、そのうえAMDからは最終的に「KX133はThunderbirdコアのCPUは使えない」と公式に発表されるに至る(関連リンク)。

AMDが「KX133はThunderbirdコアのCPUは使えない」と公式に発表する

 発表によると、KX133マザーボードで利用できるのはK75までのマザーボードに限られ、かつK75の供給は2000年第3四半期までしか行なわないとある。要するにKX133を使う限りアップグレードの方法はないのだ。おもしろいのは、この問題が出るのはKX133に限られており、AMD-751ではThunderbirdコアのAthlonが利用できるということだ。

 ではなにが悪かったかというと、当時EPoXのサポートサイトに掲載された話では以下の様な事情があった。Athlonには大きく2種類の信号モードがある。1つはOpen Drainと呼ばれる方式で、もう1つはPush-Pull方式である。

 どちらもよく利用される方式であるが、簡単に言えばOpen Drainは信号のHighとLowを一つのFETでまかなう方法、Push-PullではHighとLowの生成に別のFETを割り当てる方法である。信号の高速化を考えたときはPush-pullの方が好ましいが、Slot Aの初代Athlon(K7/K75。K76は不明)はOpen-Drain方式で構成されていた。

 一方Thunderbirdの場合、Socket AはすべてPush-pull方式であるが、Slot A向けのThunderbirdはOpen-Drain出力が可能だった。ただしこのためにはThunderbirdに対して「Open-Drain出力とせよ」と指示するための特殊な設定を必要とし、これはAMD-751にしか実装されていなかった。

 KX133にThunderbirdを装着すると、Push-pullで信号を送受信するつもりのCPUに対して、Open-Drain方式で信号を送ることになってしまい、これが理由でCPUのドライバー(送受信を行なう部分のトランジスター)が破損する恐れがあった。

 KX133に、「Open-Drain出力とせよ」という設定を施せば問題は解決するのだが、それはBIOSレベルの変更では間に合わない。チップ自身のリビジョンアップが必要らしく、結局マザーボード交換という事態に変わりはない。それならば、いっそサポートしないほうがマシ、というのがAMDとVIAによる協議の結論らしい。

すぐさま新チップを投入し
KX133はなかったことに

 結局KX133を搭載したマザーボードを出荷していたベンダーは、ThunderbirdのPush-pull方式に対応した後継製品の「Apollo KT133」が2000年6月に出荷されたのに合わせて、KT133ベースのSlot Aマザーボードを投入し、KX133製品はすぐに廃番扱いに切り替えてしまった。

KX133の後継にあたるKT133のノースブリッジ「VT8363」

 これはVIAも同じで、KX133はあっという間に同社のプレゼンテーションから姿を消し、あたかもAthlon対応チップセットはKT133から始まったかのような表記が、このあと幅をきかせることになる。

 なぜKX133に設定回路が入っていなかったのか、残念ながら詳細を知る人に未だに出会えていないため不明なのだが、結果としてKX133ユーザーは泣きながらKT133に切り替えることになった。

 しかもこの時期は、Slot AからSocket Aへの切替時期にあたり、筆者の周りでもほとんどの人がSocket AのKT133マザーボードへの更新をしている。よく確かめずにSlot AタイプのThunderbird Athlonを先に買ってしまった人だけが、VIAとAMDの対応を恨みながらKT133搭載Slot Aマザーを買い足すことになった。

 結果から言えば、Slot AからSocket Aへの迅速な移行を促したと言えなくもないのだろうが、そうした功績を称えるよりも、わかっていたはずの問題解決策(AMD-751で可能な以上、少なくともAMDはわかっていたことは明白である)を実装しなかったという間抜けぶりを称えて、KX133も黒歴史の一つに数え上げたい。

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