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4K2K時代に向けた、シャープの誇りと熱意

並外れた高級機、ICC PURIOSはどんな映像体験を提供するか

2013年03月15日 11時00分更新

文● 鳥居一豊

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ICCをミリ3本の4K技術で映し出す、最上級のキャンバスを作りたい

 他社の4K変換技術もそれぞれに精度を高めており、いちがいに優劣はつけられないが、元の映像に忠実に高精細化するという考え方が主流。この点において、ICC技術はまったく考え方が違うので(元の光景に忠実に高精細化する)、テレビとして表示された映像の印象もまるで違うのだ。

 この理屈は、決して科学的なものではないし、誰にでもわかりやすく表現したものだが、LC-60HQ10の映像を見ていると、こういった説明に納得してしまう説得力がある。たしかに、映像の映った場所に居て、その景色を見ているような気になる。

 そして、映像のどこを見てもぼやけた部分がないので、映像の隅々まで見回してしまう喜びがある。それは高画素の静止画を大きく引き延ばしても実現できることだという人がいるかもしれないが、LC-60HQ10の映像は動画だ。映像はその高精細さはそのままに絶え間なく変化している。その情報量の多さは静止画を見るのとはまるで違う体験だ。

 ICC技術は、確かに素晴らしいが、あくまでも映像処理技術だ。それを映し出すにはテレビやパネル技術が必要だ。これを開発したのがシャープだ。

小池 ICC技術の目指すところが、肉眼で見たままの景色ですから、テレビパネルに求められる性能はケタ違いの高い水準でした。まず、ミリ3本を実現できる60V型で4K解像度であること、そして、パネルの均一性を高めること。ムラのない綺麗なキャンパスに良い絵を描くということですね。

 パネルの均一性とは、輝度ムラや色ムラのこと。液晶パネルは液晶の背後に光源を置き、液晶が光源の明るさを調節することで映像を表示する仕組み。そのため、視野角の問題が生じてしまう。視野角が狭いと画面を斜めからみたとき、映像の明るさが暗くなったり、色が鈍くなってしまう。

小池 大画面を近距離で見ると、多少ではありますが画面の中央と上下、あるいは左右で視野角による明るさや色の変化が生じます。一般のテレビでは影響のないものですが、ICCで復元した映像だと、映像の遠近感を損なってしまうのです。

 画面の周辺が暗くなる輝度ムラなどはテレビ特有のもので、自然界には存在しない。そういう不自然なものを徹底して排除したパネルの開発はとても大変なことだっただろう。

「ICC技術の目指すところが、肉眼で見たままの景色」と小池氏

小池 例えば直下型LEDバックライトは、数百におよぶブロックごとに輝度を微調整して、画面の輝度を均一にしています。また、液晶パネルの階調表現もより滑らかなものにするため、「平滑化アルゴリズム」も採用しました。暗部の陰影を正確に再現することで、映像の持つ立体感を際立てているのです。

 PC用のLEDライトなどを見てみると気付くのだが、いわゆる白色LEDと言っても、同じ白どころか、緑っぽいものや黄色っぽいものなど、けっこう色にバラつきがある。当然ながら、このバックライトに使うLEDもすべて選別して特性を揃えているという。

 高精細な4Kパネルであることにくわえ、階調性の滑らかさまで追求(当然だが、画素ごとのバラつきも許されない)するとなると、開発以上に生産がとても大変なのだそうだ。当然高コストなものになってしまうわけだ。

 また、パネル開発に必要なパーツの選定でも、アイ・キューブド研究所と意見を交換しながら、ICC技術が目指す映像を再現できるものを作り上げて行った。

小池 LC-60HQ10は液晶の前面を低反射パネルとしていますが、これも完全なノングレアから、光沢に近い反射率の高いものまで、当社が用意できるものを一通りアイ・キューブド研究所と確認して、もっとも適したものを選んでいます。

 残念ながら、実用化の目処がたったのは昨年の秋頃だったというモスアイパネル(蛾の目の構造を応用し、低反射と光沢感のある映像を両立できる表面処理。XL9シリーズで採用)は、数年の歳月を費やして開発していたLC-60HQ10には間に合わなかったという。パネルの表面処理の変更ひとつですべての作り込みがゼロに戻ってしまうくらい、緻密な作り込みだったというわけだ。

小池 開発も生産も大変なLC-60HQ10ですが、その苦労の甲斐あって世界で初めて「THX 4K DISPLAY」規格の認証を取得しました。この規格は基準がかなり厳しかったのですが、パネル性能を飛躍的に高めたため、厳格なテストのすべてに合格しました。手前味噌ですが、この表示パネルは、業務用のモニターテレビを超える実力だと自信を持っています。

 4Kテレビというと、他社の多くが自社でパネル開発をせず、外販のパネルメーカーということもあって、パネル性能よりも超解像技術などの映像処理をメーカーの特徴として前面に押し出しがちだ。だが、当然ながらパネル性能は何よりも重要だ。国内では今のところ唯一の4Kパネルメーカーであるシャープだからこそ、4Kにふさわしい画質のパネルを開発できたし、真の4Kテレビと言える映像を生み出せたというわけだ。

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