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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第29回

「おおかみこどもの雨と雪」興収42億円ヒットの背景

2013年03月09日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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キャラクターアニメにしてはいけない


―― 「おおかみこども」が、ふだんはアニメを見ない層、いわゆる一般層まで観客として取り込むことができた理由は何だとお考えでしょうか。

テーマが「家族もの」であるというだけでは一般層のお客さんを呼ぶのは難しいでしょうね。実際、制作段階では「家族ものというのはアニメ映画としては地味じゃないか?」という声も出ていましたし。アニメに一般性を持たせるにはどうするかを、僕も「時をかける少女」を経て、相当考えるようになったと思います。


―― 「時をかける少女」は、わずか十数館上映のミニシアター形式にもかかわらず、相当ヒットしたという印象があります。

「時をかける少女」は興収2億6000万円、観客動員18万8000人でした。当時公開していたジブリの「ゲド戦記」と並んで取り上げられたのは、ありがたかったですね。

(「時をかける少女」は)14本のフィルムでやったんですよ。一番大変だったときは、フィルムが足りなくて、あるときなどは新宿で上映が終わった後すぐに自転車の後ろにフィルムを乗せて、次に上映する池袋の映画館に持っていったことも。2000年代になってまだ1本のフィルムを巡ってそんなに大あわてになるとは思わなかったですね。

「時をかける少女」は細田守監督の代表作のひとつ。ミニシアターから大ヒットにつながった


―― その次の「サマーウォーズ」では、一気に興収16億円、観客動員も123万人になったわけですね。「時をかける少女」のときに何をつかんだのでしょうか? やはりこのときから一般層に見せる工夫をされていたということでしょうか。

「時かけ」のときに一般のお客さんを呼ぶことができたのは、結果的に、というところが大きいと思います。でも、最初からできるだけ多くの人に見てもらいたいとは思っていたんです。僕らのような往年のファンがたくさんいる筒井康隆先生の「時をかける少女」という原作をお借りできたのは、非常にありがたかったから。

「『時かけ』は国民文学的作品だから、そのスケールをむだにしちゃいけない」というのが僕らの思いで、「時かけ」が持っている一般性を殺さないやり方でつくりたい。アニメが好きな人たちの中だけで閉じていて、一般の人が見てもわからない、共感できない作品にはしちゃいけないなと。


―― 「アニメの好きな人たちの中で閉じて、一般の人が見てもわからないアニメ」とはどんなものだと思いますか? それから、それを回避するためにどんな工夫をされたのかを教えてください。

何だろう? 思いつくままに言いますから、あまり本気に取らないで欲しいんですが(笑)。

ひとつは、「キャラクターアニメ」にしてはいけないなということです。かつて長年、僕がアニメ雑誌の編集をやってきて感じたことなんですが、キャラクターアニメの約束事って、いくつかあるんですよ。たとえば「髪の毛の色に、実際にはありえない色を使う」。これで客層がひとつ狭くなります。それから「顔を同じテイストに統一する」。つまりを人物の表情をある一定の幅の中に集約する。一般の人は、そういうアニメの約束事を知らないから、結果、顔が全部同じに見えてしまう。これでまた客層がひとつ狭くなります。

次に、パンツが見えるか見えないか。見えるとした瞬間に、また狭くなる。

狭くなればなっていくほど、実はユーザーの顔ははっきり見えてくるんです。だからターゲットを明確にして(アニメを)売っていくときには、この戦略を全部採用するやり方もある。「時をかける少女」ではそうしたキャラクターアニメの約束事に縛られませんでした。

そしてもうひとつ。これもアニメ雑誌の編集をしていて感じたことなんですが、舞台設定やお話をできるだけ現実世界に近くしてリアルな描写にしておきつつ、“ここだけはアニメならではのウソですよ”というファンタジーをひとつだけ入れるんです。ベースはあくまでも現実世界にあって、説得力を持つような不思議を少しだけ入れる。


―― 不思議なことを少しだけにとどめる理由はなぜですか?

一般のお客さんが理解して共感しやすいのは、自分たちのいる現実世界か、それに近いところでしょう? そういう現実世界にひとつだけウソを入れるという作り方はずっと同じで、「時かけ」ならタイムリープ、「サマーウォーズ」ならOZという仮想世界、「おおかみこども」なら、おおかみおとこという設定がそうですね。

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