Direct RDRAM普及のゴリ押しに
まんまと乗せられた?
これらのことから、Direct RDRAMを使ってハイエンド製品を展開するという目論見は見事に潰え、2004年には会社が事実上UMCに買収されてしまったわけだが、なぜSiSはDirect RDRAMにそこまで賭けざるを得なかったのだろうか。これはSiS自身の判断というよりは、サムスンとRAMBUSの強力な後押し(別名:ゴリ押し)があったようだ。
RAMBUSの思惑はわかりやすい。Intel 820やIntel 850の失敗により、インテルはDirect RDRAMを捨てDDR-SDRAM路線に切り替わってしまい、この時点でDDR-SDRAMに代わって業界標準メモリーの座を獲得するというRAMBUSの野望は完全に潰えたのは間違いない。ただそのDDR-SDRAMにしても、DDR-400は2.5Vのままでは動作が難しく、2.6Vを供給する必要があるなどの困難があり、コンシューマー向けはともかくサーバーあるいはワークステーション向けには、まだDirect RDRAMで戦える余地が残っているのではないかと考えたようだ。
一方のサムスンは、まだこの時点でDirect RDRAMのチップを製造していた。元々サムスンとエルピーダはソニー・コンピュータエンタテインメントのPS3向けに契約ベース※2でDirect RDRAMを製造していたが、エルピーダはこれでほぼ全部なのに対し、サムスンはスポットベース(契約に基づかない生産)でも製造しており、特にPC1200向けの高速品はこのスポットベースのものがそれなりの割合であった。
※2 価格や数量をきちんと決めた上での生産。受託製造に近い。
サムスンは、PC向け以外にも一部のサーバーや通信機器向けのDirect RDRAMも製造しており、こうしたマーケットには高速品が好まれたものの、絶対的な数量はそれほど多くない。ただ契約ベースの場合、供給保障を行なう関係で生産はやめられず、かといって絶対数量が少ないとラインの稼働率が下がってしまう。こうしたことから、ハイエンド品を使ってくれるマーケットが生まれるのは非常に大歓迎である。
対してSiSは、自社の製造ラインへの投資と対UMCの訴訟費用がかさみ、さらには急速に生産能力が上がるために、これを埋めるべく多数の製品を開発する必要があり、いくら資金があっても追いつかない状況であった。こうした状況では、ある程度の資金的な見返りがあれば、多少のゴリ押しは受け入れざるを得なかったのだろう。
実際R658からR659に移行するにあたり、単に800MHz FSBのサポートを追加するだけでも良かったはずなのに、より多数のRIMMを装着できる4ch構成を最終的に選ばざるを得なかったことからも、この辺の事情が透けて見える。
インテルに見放されたのが決定打
SiSにとって悲劇だったのは、インテルの協力を得られなかったことだろう。歴史にifは無意味ではあるのだが、もしR658~R659の誕生が2002~2003年ではなく2000~2001年だとしたら、インテルとしても「Direct RDRAMを使うメーカーを増やしたい」という観点からライセンスに関してもう少し柔軟な対応が期待できた可能性はある。少なくともRAMBUS社経由でのプッシュはかなり有効だったはずだ。
ところが2002~2003年は、インテルとRAMBUSはもう袂を分かった後であり、RAMBUS経由のプッシュはむしろ逆効果に作用する。2003年の時点でDirect RDRAMベースのデュアルXeon搭載サーバー/ワークステーションが抱える問題解決策をSiSが提供するのは、インテルにとって何のメリットもない。ライセンスを得られなかったのも当然だし、そうなるとR659のメリットはまったくない。
加えて、SiSは長らくPC向けのみを手がけてきたゆえに、サーバーやワークステーションでは当然要求される64bit PCIやPCI-Xといった高速I/Oバスがまったく提供できなかったことは、R659の魅力をさらに減じることになった。
結局、R658/R659のラインナップは、少なくともSiSには何の実りももたらすことがなかった。単に時間と開発費を無駄に費やしただけ、というあたりはやはり黒歴史に相応しい製品であろう。
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