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「Wikimedia Conference Japan 2013」リポート

毎月5億人が訪れるウィキペディアの舞台裏

2013年02月19日 07時00分更新

文● 宮原 淳/アスキークラウド編集部

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スマホの普及がウィキペディアの脅威!?

 講演ではウィキメディア財団についても語られた。前述のとおり160人ほどの小さな組織で、デザイナーや研究者、法務関係者などが集まる。本社は米国のサンフランシスコ市にあり、世界中から人材が集まっているという。

 財団の主な仕事は「財源の確保」とはいえ、「世界中で自由な知識が広がることの支援」を第一に掲げている。国際的なウィキペディア運動を支援するために財団は存在しているのだ。

 しかし、財団が抱える問題は多い。ひとつは幾度となく語られている「参加者数の減少」だ。これにはいくつかの仮説があり、まずはソフトウェアが古く、編集が難しいので長年の活動を通じて参加者が疲弊してしまったというもの。また、すでに出来上がったコミュニティーが新しい参加者を遠ざけているという説もある。そして、TwitterやFacebookなど、新たなウェブでのプロジェクトとの競合も大きい。これらの問題を、財団はクリアしなければならない。

 さらに「アクセスの障壁」という問題もある。インターネットにつながることがあたりまえの先進国に対して、新興国ではネットの接続費用が大きな負担だ。そうした国ではシンプルなモバイル端末からウィキペディアに接続する。つまり、見ることはできても書くことが難しい環境だ。モバイル技術によって簡単にインターネットが利用できるようになった一方で、モバイル技術はウィキペディアの書き手を増やしてくれない。これはウィキペディアの編集が盛んな国でも同じことだろう。

 ウィキペディアが抱える問題を解決するために、財団はツールの更新にも取り組んでいる。ウィキペディアの文法を学ばなくても簡単に編集ができるソフトウェアや、記事そのものの品質向上を狙った評価ツールを導入。また世界中の編集者と接触し、フィードバックを得て開発に取り込むといった努力も行われている。

 さらに財団は、モバイル端末から無料でアクセスできる「ウィキメディア ゼロ(Wikimedia Zero)」というプロジェクトを推進。これは電話会社に協力を求めて、ユーザーがデータ通信費を負担しなくても低速な通信環境用のウィキペディアを使えるというもの。すでに3億人が使用できる環境にあり、来年には10億人に広がるという。インドやブラジルなどの発展が著しい国で重要なプロジェクトだ。

 これらの改善が成功し、世界中で自由な知識を広げるためには、より多くの参加者が必要だとウォルシュ氏は言う。「ソフトの開発コミュニティーへの参加」「活動支援のための助成金の申請」「文化学術団体とのパートナーシップ強化」「Wikipedia Japanの設立」「必要な改善や技術の財団との共有」──などを含め、日本のコミュニティーにどんどん参加してほしいと語っていた。

多様性に富む講演内容

 WCJ2013ではウォルシュ氏のほか、「Wikipediaを書こう」「Wikipedia研究と執筆者のために」というテーマでの講演が行われ、「Wikipediaと学術情報利用」「区立中学でWiki体験」「国会図書館の使い方」「Wikipediaの信頼性計測」といった講演も開催された。

WCJ2013

東京大学知の構造化センターの吉見俊哉氏。エンサイクロペディアの概念と、ネット時代に生まれたウィキペディアの可能性、そして知識にとって必要なものとは何かということを多数のスライドを交え一気に語った

 中でも、東京大学知の構造化センターの吉見俊哉氏による、「エンサイクロペディアとアーカイブの結婚:Wikipediaから新しい大学は生成するか」という講演が興味深かった。膨大な印刷物が出回った16世紀と、インターネットの情報爆発が起きた21世紀が似ているという話や「そもそも知識とは何か?」「ネットのバラバラな情報は知識の基盤足りえるのか?」という疑問を提示。ウィキメディアが集合知となりうるのかという疑問に対して、知識には構造性・歴史性・主体性が重要だとする主張やそのためのアーカイブの重要性などが語られた。

 WCJ2013の開催報告は公式ホームページから閲覧可能。現在は一部の資料とブログメディアへのリンクを読むことができ、今後充実していくとのことだ。


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