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Violin MemoryとPure Storageの技術的な違い

新興2社のアプローチから見るフラッシュストレージの動向

2013年01月28日 07時00分更新

文● 渡邊利和

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Pure Storageの取り組み

 1月22日には、東京エレクトロンデバイスが米Pure Storageの製品の取り扱いを開始することが発表された。説明のために来日した米Pure StorageのCEOのスコット・ディーツェン氏は同社の製品を「100% Pure Flash Storage」だと表現する。ただし、同社のアプローチはViolin Memoryとは対照的だ。

米Pure StorageのCEOのスコット・ディーツェン氏

 同社のストレージでは、コンシューマ市場向けの安価なMLC SSDを採用する。この点だけ見れば、一般的なHDD RAIDボックスのドライブをSSDに交換しただけ、とも言える。このアプローチによる強みはコスト競争力だ。

Pure Storageの主な特徴。100%フラッシュ、安価、あらゆる面で“10倍”優れる、という

 さらに、同社の独自の強みと言えるのが「データ圧縮」「重複排除」をインラインで実行できる能力を備えた点だ。独自技術による高速処理で、データの読み書きのタイミングでリアルタイムで処理を行なうことで、ストレージ上に実際に保存されるデータ容量を平均で1/5以下に圧縮する。HDDと比較した場合のSSDの欠点と言えるのが容量単価がまだ高いことだが、この点をデータ圧縮と重複排除を組み込むことで解消し、ユーザーデータ容量当たりの単価でHDDを下回ると同社は主張する。

SSDにエンタープライズクラスの高信頼性機能を組み合わせる、ということ自体は特に珍しい話ではないが、コンシューマ市場向けの安価なMLC SSDを採用している点と、ミリ秒以下の時間でデータ量の削減(圧縮/重複排除)をインライン実行できる点が特徴となる

 同氏はRaw Flash対SSDの議論に関して、「社内でも盛んに議論された難しい意思決定だった」と振り返りつつ、SSD採用に踏み切った背景を簡単に説明した。「今後もフラッシュメモリの製造プロセスの微細化は進行し、チップ当たりの物理容量は増大し、チップ内部に組み込まれるECC機構も複雑化していくと予測される。このとき、こうした最新チップを適切に活用できるコントローラーを開発できる企業はごく限られてくる」というのが同社の予測だ。

 結果として、SSDメーカー以外はコントローラー開発競争から脱落すると同社は判断した。そのため、同社にとっては「メーカー製のSSDを購入することが安価で高性能なストレージデバイスを入手するためのもっとも確実な方法だ」との決定したわけだ。

 コントローラーの重要性に対する認識は共通するが、自社の開発力に賭けたのがViolin Memoryで、プロセッサーなどと同様に専門メーカーの製品を採用する道を選んだのがPure Storageだと言えるだろう。結果としてPure Storageは、ローコストの業界標準ハードウェアと、データ圧縮/重複排除という上位レイヤーでのソフトウェア機能によって製品競争力を高めていくというソフトウェア寄りのアプローチを採り、ハードウェア寄りのアプローチを採るViolin Memoryとは対照的な製品戦略となっている。

 Pure Storageを販売する東京エレクトロンデバイスでは、当初は直販中心に需要の掘り起こしに取り組む計画で、サーバー統合/仮想化、デスクトップ仮想化、データベース高速化といった用途を想定して販売推進に取り組む計画だ。やはり、当初は現状のHDDベースのストレージのパフォーマンス(スループット/IOPS)に不満を感じているユーザーに対してアプローチする方向だが、Pure Storage製品のコストパフォーマンスなら、エンタープライズユーザー全般に対してアピールする魅力があるようにも思われる。

HDDを置き換えるための爆発的多様化

 フラッシュメモリを活用したストレージシステムでは、省電力、省スペースで作動音が静か、地震や震動と言った状況下でも安定した動作するなど、HDDと比較した際のメリットは多い。実際、コンシューマ製品ではすでにストレージの主役はフラッシュメモリに切り替わっていると言ってよい状況であり、この流れがいずれエンタープライズストレージにも至ることは間違いないと判断できる。エンタープライズユーザーが重視する信頼性やデータ保存の確実性、オペレーションコストといった点に関する懸念が解消され、心理的な障壁が取り除かれればエンタープライズ市場でもフラッシュストレージによるHDDの置き換えが本格化するだろう。サーバーの内蔵ストレージに関してはSDDの採用はすでに珍しいことではなくなっているし、PCIe接続の高速なRaw Flash型ストレージもサーバベンダー各社がオプション提供している状況だ。

 ここに来て、Violin MemoryやPure Storageといった100%フラッシュのストレージをエンタープライズ市場向けに製品化するベンダーが相次いで国内でのビジネスを本格化させてきたことは、HDDからフラッシュへの移行がいよいよ加速し始めたことを意味するように思われる。両社のアプローチは、「独自ハードウェアかコモディティハードウェアか」「パフォーマンス指向かコスト効率指向か」など、さまざまな面で対照的だが、これは、現在のHDDがカバーする領域の幅広さを反映したものだと言える。現状のHDDも、容量指向でコストパフォーマンス重視の製品から広帯域/低レイテンシを追求したハイパフォーマンスモデルまで、多様な製品が幅広いユーザーニーズに応じてラインナップされている。HDDをフラッシュで置き換えていくためには、こうした広範なニーズすべてに対して適切なフラッシュストレージが提供される必要がある。さもなければ、フラッシュの特性にあった用途にのみ適用可能なポイントソリューションという位置づけに留まることになる。

 対照的な志向性をもったフラッシュストレージベンダーがほぼ同時期に顔を揃えたということは、いよいよフラッシュがHDDの用途全般を置き換えられる段階に達したことを意味すると同時に、この領域が業界的な“ホットスポット”となりつつあることの表われでもあるだろう。あるジャンルが盛り上がる際には、生物進化の爆発的な放散期にも似て、多種多様なベンチャーがほぼ同時期に一斉に立ち上がるという動きが見られることが多い。フラッシュストレージは、ちょうど今そうした段階にさしかかったのだと考えて良さそうだ。

 多種多様な手法が試されるなかで、ユーザーの支持を得たものが生き残り、買収や統合を経て少数の有力企業/製品に整理されていく、というのはこれまでもさまざまな分野で繰り返し起こってきているわけだが、その過程で急速に洗練が進むことも間違いなく、黎明期から一定レベルへの成熟は意外に短期間で達成されるという印象もある。現時点では、10年後にはHDDからフラッシュへの置き換えはほぼ完了しているだろう、という見通しをよく耳にするが、実のところこの置き換えはもう少し早く、おおよそ今後5年程度で「フツーはフラッシュ、HDDは特殊用途向け」といった認識に切り替わっているのではないかと予想される。

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