CMSの更新ができず性能が上がらない
最後の課題が性能である。VLIW最大の弱点は、効率的なプログラムの記述が難しいことだ。それに加えてCrusoeにはもうひとつ「(CPU内の)CMSを後から入れ替えられない」という重大な欠点があった。当時の半導体技術では、CMSを後から入れ替えられるようにするのは非常に難しく、コストを考えるとCMSそのものを、マスクROM風に焼き付けるしか選択肢はなかった。その結果として、CMSのバージョンアップが不可能になってしまった。
もちろんCMS自体はバージョンアップされていったのだが、CPUの交換という手段でしか新しいCMSを利用する方法がなかった。しかもCrusoeのパッケージはソケットを使わない、基板にハンダ付けするBGAパッケージだったから、CPUの交換は基板、あるいは本体そのものを交換しなければならない。
そのため現実的には、PCを買ったときのCMSを、そのまま使うしかないわけだ。しかし前述のとおり、そもそもCrusoeの現実的な処理性能は2Atom/サイクル前後だから、お世辞にも高速とは言えなかった。
高性能を目指して利点も失うEfficeon
鬼門はVLIWそのものか
こうした問題点を踏まえて、Crusoeの後継であるEfficeonでは、VLIWを256bit幅に拡張して、8Atomの同時実行を可能とした。また、8つのAtomに対して実行ユニットは11に拡充。主要な実行ユニット(ALU/Compute/MMX/SSE/Exec/Load Store)を2つずつ用意して、性能を引き上げようとした。
お詫びと訂正:掲載当初、「VLIWを258bit」と記載していましたが、正しくは256bitでした。ここに訂正するとともに、お詫びいたします。(2013年1月8日)
また、プロセスも微細化することで動作周波数を1.2GHzに引き上げ、後の90nmプロセスを使った「TM8800」では、最大1.7GHzまで動作周波数が向上した。ただしこれは、Crusoe/Efficeonの長所を潰す方向に作用した面も少なくなかった。ダイサイズは0.13μmプロセスを使っても119mm2まで膨れ上がり、インテルCPUに対する消費電力の利点も、大幅に減ってしまった。
Efficeonの場合、競合製品は「Banias」ベースの「Pentium M」になった。消費電力が7Wの場合、Efficeonは1.1GHz駆動に対して、Pentium Mは900MHzまで動作周波数が引きあがった。また、割り込み処理などは専用ハードウェアを用いることで、遅延を大きく短縮することに成功したが、これはCMSで管理できないハードウェアが含まれるということにもなる。結果として、さらにCMSの記述を難しくした。
また、Atomのスロット数と実行ユニットが1対1という関係を、Efficeonでは崩したことも、CMSの最適化を難しくする方向に作用した。結局のところ振り返ってみると、VLIWの難しい部分がEfficeonで一気に噴出したという感は否めない。
VLIWというアーキテクチャーはインテルの「Itanium」のように、ある種のプロセッサーアーキテクトの心を掴んで離さない、なんらかの魅力があるのではないかと思う。それに果敢にチャレンジして砕け散ったのが、トランスメタのCrusoeやEfficeonであり、主要因はプロセス技術にしても、副要因はやはり「VILWを採用したこと」だったのだろう。
最近の例では、AMDのRadeon HD 5000/6000シリーズがVLIWなので、どんな用途でもVLIWには無理があると言うつもりはない。だが、汎用プロセッサーを構成するには、VLIWは鬼門なのかもしれない。
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