ペンで書くことに徹底的にこだわった
清水 僕も驚いたのは、ある機能部分だけ取り出してみると、今僕らが予想している価格の倍以上する一流メーカーのハードよりも反応がいいからね。それと少し関係しているんだけど、子供でも老人でもプログラムができます。
遠藤 まさか「前田ブロック」の名前を変えただけとか?
清水 まぁ前田ブロックの名前を変えただけなんだけどね……ってだけじゃなくてもっとすごいことをやるんだけどさ。あと一番重要なのが、書けるってこと。
遠藤 ペンタブレット?
清水 そういうこと。ペンの反応だけ見たら、比較できるものがない。そこだけJavaを使わずにC言語で書いてるから、すごく速い。
遠藤 Android 4.2もタッチのレスポンスを改善したといっていますよね。ここに関してはカーネルに直接アクセスできるようになったとかなんとか。
清水 全然比較にならない。僕らはペンで書くためだけに独自のドライバーを作って、OSに横から手を入れてる。デバイスのスペックはよくないけど、ソフトウェアはすごくいい。そしてペンの性能はピカイチ。なぜ樋口さんに話しにいったかというと、ああいうペンを使う仕事をしている人たちが、仕事で使うレベルまで持っていけるかという話。
遠藤 なるほど。わかった!
清水 これだけの情報では、ペンで書くということと、前田ブロックでプログラミングすることが、エレガントなユーザーインターフェースで同居しているなんて想像もできないと思う。
増井 分からないね、残念ながら。
清水 増井さん的な世界観にも対抗しているんです。全世界プログラミングじゃないほうね。旧来のコンピューティングですごいのが、オブジェクト指向でしょ。Smalltalkとかウィンドウシステムとか、ウィジェットとか。そういうのを全部忘れようっていう。オブジェクト指向ではあるんだけどね。
遠藤 ここまでの話を総合すると、僕はルーブ・ゴールドバーグの世界を実現するものが欲しいなと。
清水 ちょっと検索してみよう……。あ、これは近い(笑)。
遠藤 そりゃそうですよね。前田ブロックときて、より普通に遊べるという話で、オブジェクト指向で、クリエイティブだとすると。で、ルーブ・ゴールドバーグってやったとたんに、アメリカ人にはものすごい反応があると思います。アメリカ人にとっては常識だから。「ピタゴラスイッチ」は、ルーブ・ゴールドバーグの類型みたいなところがあるし、この世界をゲーム化したものもあったけどパズルの範囲を出なかった。本家ルーブ・ゴールドバーグの自由さが大切なんですよね。ちなみに、これがいいのはセコいところなんですよ。例えば鉛筆を削るのに、部屋一つぐらい必要だったりとかね。
清水 結局、手で作るものなんですよ。何か表現する。僕らは何も用意しないっていう。
遠藤 要は自分でやらなきゃだめよっていう。
清水 そうそう。何もしてくれないからMOONは。何もしないものを一生懸命に作ってる。機能を追加したかったら、プログラムを書くしかない。昔のMSXみたいな感じ。
増井 まるでAIBOの話をしてるみたいじゃないか。
清水 あー、でもAIBOっぽい。
増井 AIBOも何もしてくれないし。
清水 もしかすると遠藤さんはiPhoneより使うかもしれない。
遠藤 変人だからね。
増井 iPhoneより使うんだ。
清水 かもしれない。
増井 麻薬的なの?
清水 麻薬的なのは「すばらしい新世界」の方だから。単純な話をすると手書きの方がいいから、じゃあそっちを使おうかなってこと。全世界コンピューティングが出てきたときに、キーボードが付いていてはいけない。
増井 うん。
清水 ペンの使い方って、小学校に入る前から覚えるじゃないですか。自分の名前を書きましょうとか。小学校3年生の娘にパソコンを渡してメールを書いてもらおうと思ったときに、アルファベットを習ってなくてローマ字が打てないから打てない。「ああ、そうなんだ」って。読めもしないし書けもしない。かな入力は今度は母親が分からない。そういう世代ギャップがあって、キーボードを打つのは意外と障壁になる。これって後天的なもの。
遠藤 なんかいきなりMetaMojiみたいな話になってきたね。さっきまではかなり面白かったから突っ込もうとしていたけど、今の話はもうそんな気にならない。
清水 わかったよ。MetaMojiはまったく競合しないです。ちなみにいうと、MetaMojiと同じ文字認識エンジンを持っていて筆記体も認識できる。メタモジと根本的に違うのは、認識しても見せないってこと。
遠藤 いいですね。
清水 文字認識がダサいのが、認識したあとに確定するじゃないですか。あれがあるから使いたくなくなってしまう。認識はすれど姿は見えずってのが、俺たちが作ってるMOONの正体です。
増井 文字書くんだ。文字なんか書いてたらダメなんじゃないですかね。
清水 そのレベルまで行くと、俺もだんだん何を作ってるか分からなくなっちゃうので……。でもまだ半分ぐらいしかいってないけどね。僕は自由研究に使ってほしいなって思っています。
増井 じゃあ便利なんだ。
清水 だから便利って……なんで便利とかそういう。
増井 字を書くとなると、すでに便利の範疇に入るじゃないですか。
清水 あー、便利っていうか、別に形而上的なデバイスを作ろうとしているわけじゃないから。AIBOよりは役に立っちゃうかもしれない。
遠藤 AIBOは、月刊アスキーで電卓プログラムとか掲載しましたよ。前足を取ったり、頭を叩いたりして、計算するんです。
清水 なんでそんなに得意げに。
増井 すごい便利。
遠藤 これってプラットフォームなんだよね?
清水 いや違う。みんなが期待してるもんじゃないですよ。