博報堂プロダクツのダイレクトマーケティング事業本部は、2012年にDBマーケティング部を本格稼働させ、いわゆる「ビッグデータ」に挑んでいる。そんな同社にデータ分析の捉え方を聞いた。
ダイレクトマーケティングは昔からデータ志向が強い
博報堂プロダクツは、大手広告会社博報堂が100%出資し、企画や制作などを担う総合制作事業会社で、約1200名超の規模(2012年4月時点)である。今回お話を伺った大木真吾氏はダイレクトマーケティング事業本部に所属しており、「通信販売や店舗送客、CRMなどに代表されるダイレクトマーケティングをクライアント様といっしょに展開しています。広告効果の数字をクライアント様と共有しながら、ROI(投資対効果)で一喜一憂します。ダイレクトの広告の良し悪しは電話の本数。つまり、いくら売れたかにかかっています」(大木氏)と現在のビジネスについてこう話す。
こうしたダイレクトマーケティングの分野においては、ビッグデータという言葉が生まれる前からデータの利活用は一般的だった。大木氏は、普段扱っているデータや施策について、「広告効果を上げ、クライアント様の販売に結びつけるのが施策設計の目的です。そのために、まず顧客データと購買データを用います。これらは極力IDでひも付いていることが理想形です。これらに広告やキャンペーンの実施データをつなぎあわせたり、外部のオープンデータやエリアデータなどを組み合わせて分析をすることで、施策の効果をさまざまな視点で検証できます」と説明する。
これらダイレクトマーケティングでの取り組みの延長として、本格稼働させたのが「DBマーケティング部」である。このDBマーケティング部の目的や特徴として、大木氏は「顧客の購買行動を知り、次を予測するのが目的。顧客データと購買データの分析を元に施策を設計し、実施していきます。クライアント様のデータベースを元に施策を打つので、かなり説得力が出てきます」と語る。以下では意図して「ビッグデータ」という言い方をしていないが、要は大きいか、小さいかはともかく、利用するデータの種類は決まっており、分析までのフローも、すでに明確になっているわけだ。
顧客データ、購買データ、施策データの3点セットが基本
大木氏の所属するDBマーケティング部では、個人情報を抜いた形でデータ分析の基本3点セットと言える顧客データ、購買データ等をクライアントから提供してもらい、専用のデータベースを構築。これを元にさまざまな分析を行ない、施策の立案、実施、そして効果測定というPDCAサイクルを回している。迅速なPDCAサイクルを実現させるために、広告や販売施策の実施も外部に任せることなく、ワンストップで行なっているのが1つの特徴だという。
典型的なのは顧客の来店頻度や期間、累積売上に基づき、顧客をグループ化する手法だ。具体的には、一定のルールに従い、来店回数の多い優良顧客、ほとんど来店のない休眠顧客、エントリ顧客に分類する。こうした分類により、それぞれのグループに対してインセンティブやメッセージを変えることが可能になる。「お得意様にはちょっと高い封書にして、エントリ顧客はコスト効率の良いツールにするとか、ツール自体のコストもコントロールできます」(大木氏)という。
また、分析で導き出される「顧客の買い物シナリオ」も重要だ。「顧客獲得の鍵は優良顧客にありと考えており、エントリ顧客から優良顧客へ至る履歴をきちんと調べて、奏功したケースでレールを作ってあげれば、あとは他の方をそこに乗せてあげればいいわけです」(大木氏)。とはいえ、特に最初買った人にもう1度買ってもらうのは重要かつ高いハードルであり、一番力を入れなければならないとのこと。「購買行動を可視化すると、たとえば2ヶ月を超えると、最初買った人が2回目の購買に至ることが少ないことがわかるんです。こうした結果が出たら、2ヶ月以内の方にはより熱い『ラブレター』を送ります」(大木氏)という。もちろん、既存顧客のみを追い続けていては規模が縮小していくので、新規顧客獲得のための施策とうまくバランスをとっていくのが重要とも話す。
大木氏は、こうしたデータ分析を行なうことで、表層的な傾向に惑わされない、深い洞察が実現できると語る。
(次ページ、データ分析で4倍の来店者を実現した事例)

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