次期Opteron/AMD FXは2014年の可能性も?
そうは言っても、「GLOBALFOUNDRIESは駄目そうだから、TSMCに切り替えよう」とは簡単にいかないのが現状である。まずTSMCの製造請負量が、OpteronやAMD FX、APUの量産を賄えるほどあるのかいう問題がある。これについては、NVIDIAとAMDの最新GPUロードマップについて触れた連載175回と176回でも触れている。
大雑把に考えると、APUは2013年6月頃、OpteronやAMD FXは2013年10月頃に量産出荷ができればいいと考えるなら、2013年3月/6月頃に量産開始すれば、ぎりぎり間に合う計算になる。しかし、この時期にそれだけの製造請負量がTSMCにあるかどうか、にわかには判断しがたい。
だがTSMCへと生産を切り替えられない理由は、生産量以外の問題の方が根深い。これまでAMDは、GLOBALFOUNDRIESの28nmプロセスにあわせて物理設計を行なっているはずだ。これをTSMCに切り替えるとなると、物理設計をほぼやり直すはめになってしまう。物理設計に猛烈な時間がかかるというのは、「Itanium」や「GeForce GTX 480」の例でもわかるとおりである。
Wichita/Krishnaのキャンセルと同じタイミングで、SteamrollerもTSMCをターゲットに物理設計を始めないと、おそらく2013年の計画内に製品を間に合わせるのは不可能である。そのためSteamrollerが間に合うかどうかは、GLOBALFOUNDRIESの28nmプロセスの状況にかかっている、というのが現状である。
幸いにというべきか、Trinityの後継となる「Kaveri」の場合、GPUコアは元々TSMCで製造していたものだから、これをTSMCに戻すのは難しくない。CPUコアだけなんとかなればTSMCで製造し、2013年中にリリースすることも不可能ではないだろう。もっともこの場合、それがSteamrollerベースなのかどうかは、また別の問題である。結局OpteronやAMD FXが間に合うかどうかは微妙なところで、2013年末、あるいは2014年までずれ込む可能性もあるかもしれない。
Bobcatの後継は4コアサポートのJaguarに
これに対して比較的順調なのが、AMD Eシリーズの後継となる「Jaguar」ベースの「Kabini」コアである。これはZacate 2.0の後継であり、基本構造は従来の「Bobcat」と変わらないものの、SIMD演算の128bit化(従来は64bit演算×2)やAVX命令対応、いくつかの命令の最適化、FPU命令の高速化などの拡張が施されている。そのほかに、インテルの「Loop Stream Detector」に似た命令バッファの搭載や、より高速動作するためのデコーダ部のステージ増加。デコーダの処理性能向上、新命令の追加、ライトバッファの性能改善などが追加項目として挙げられている。
またJaguarは2次キャッシュを共有バッファとし、最大4コアまでサポートする。IPCと性能/消費電力比の両方も改善しているという。
Kabiniはおそらく、それほど苦労なくTSMCで量産可能と見られる。Bulldozer系列は高性能を追求するために、特定のファウンダリのプロセスに最適化した設計を用いているのに対し、Bobcat系列は元々SoCでの利用を念頭において、ファウンダリを選ばないような設計、つまり特定のファウンダリのプロセスに最適化をしないような作りになっている。組み合わせるGPUは元々TSMCでの製造だから、これならば相性がいいわけだ。
Wichita/Krishnaキャンセルの時点で、AMDはKabiniの量産をTSMCに切り替える決断をしたというのがもっぱらの噂で、これは比較的合理的な判断に思える。2013年1月の家電展示会「International CES 2013」に合わせて、Kabiniベースの製品か、Kabiniをタブレット向けに最適化した「Temash」ベースの製品がアナウンスされるのではないか、という予想もあるほどだ。Kabiniはインテル「Clover Trail」の対抗馬として、順当なところではないかと思う。
問題なのは、KabiniはともかくTemashに十分な需要があるのかだ。インテルはClover TrailとWindows 8タブレットの組み合わせを、強力に推進するつもりでいる。しかしマイクロソフトから見れば、これはWindows RTと思いきり被る分野であり、どこまでこれが普及するのかは正直読めない。
そしてこのBobcat系列こそ、ARMのCortex-Aシリーズと直接ぶつかる市場を狙う製品である。少なくとも2013年のKabiniは揺るがないと思われるが、その先どこまでこうした「省電力x86系列」に需要があるのか、これは市場の動向次第であろう。少なくともAMDも、このあたりはまだ明確にしてはいない。
AMDが考えるx86とARMの住み分けを振り返ると、モバイルはAPUが担うとしているが、図下側の「ARM」と「x86」の位置を見ると、「ARM」の枠が微妙に「Media Cluster」にかかっているのがわかる。これは偶然ではなく、意図的であろう。
AMDは業界団体「Heterogeneous System Architecture」(HSA)の推進役の一社であり、HSAはx86およびARMコアとGPUの融合を図るための標準化団体である。つまりAMDの言うAPUとは、x86ベースとARMベースの両方を指すことになる。このあたりに微妙な含みを残しているあたりが、こうした省電力x86コアの将来を物語っているとも言える。
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