そこに死角はないのか?
LINEは8月30日から、auのスマートパスに加わった。無料通話とメッセージという、これまで通信キャリアが収益源の1つとしていた領域に、LINEが公式に採用されたことは、業界に少なからず波紋を拡げた。本連載でも、舛田氏に対してその経緯を詳しく聞いている。
▼ASCII.jp:「友だちの友だちは友だちではない」LINE が先取する電話の未来
OTT(オーバー・ザ・トップ)として、かつてのiモードが指向していた世界観をスマホ上で実現しようとするLINEの姿については、本書巻末に収録した(iモードの生みの親である)夏野剛氏へのインタビューでも確かめられた格好だ。
その文脈で捉えると、LINEが単なる無料通話・メッセージサービスとしてのデファクトを目指すのみならず、プラットフォーム化を宣言し、LINEPOPなどのゲームや音楽コンテンツの配信に力を入れる理由もよく理解できるはずだ。
このように7500万人以上のユーザーを抱え、月間のアクティブ率が80%以上と驚異的なパフォーマンスを見せるLINEだが、そこにはいくつかの不安要素もある。
特に注目されるのはコミュニケーション情報の扱い方だ。本書執筆に際して、あらためてLINEの利用規約を確認したが、通信事業者として申請したNHN Japanは、ユーザーがやり取りする情報について基本的に内容を確認しないことを明記している。
夏野氏は「ユーザーの自己責任の世界」としてLINEの運営方針を支持するが、ソーシャルゲームのコンプガチャ問題以降、ウェブ業界に厳しい目が向けられるなか、10代のみならず海外にもユーザー層を広げ、ゲームを通じた交流も提供していくNHN Japanや、参入各社がどのような姿勢でこれに臨むのか注目しておく必要がある。
多くのビジネスがそうであるように、危機と機会が同時に訪れているこの領域。アプリの使い方といった表層的なことだけでなく、業界の在り方や、当事者たちの思考プロセスを把握しておくことは、他の分野においても役立つのではないかと筆者は考えている。
著者紹介:まつもとあつし

ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ネットコミュニティーやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、コンテンツのプロデュース活動を行なっている。DCM修士。『生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ』(アスキー新書)、『スマート読書入門』(技術評論社)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト―映像の新しい消費形態』(NTT出版)。Twitterアカウントは@a_matsumoto
最新刊はコグレマサト氏との共著『LINE なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか?』(マイナビ新書)。12月27日には秋葉原でコグレマサト氏に加え、アーティスト・ブロガー・プランナーのまつゆう*氏とイベント(無料)も開催予定。
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LINE なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか? (マイナビ新書)コグレ マサト、まつもと あつし(著)マイナビ

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