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松村太郎の「西海岸から見る"it"トレンド」 第8回

東京とシリコンバレーは違いすぎ? 日本が目指すべき場所

2012年11月25日 12時00分更新

文● 松村太郎(@taromatsumura

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東京で考えたことその3
日本はシリコンバレーを目指すべきか?

 もう1つ、米国西海岸と東京を行き来するときに感じたことは、東京とシリコンバレーとの違いです。よく「日本版シリコンバレーを」といった取り組みを見聞きすることもありましたが、やはりこれは目指さない方が良いのではないか、と考えるようになりました。

 おそらく、冬でも暖かで、晴天が非常に多い「天気」は、絶対にシリコンバレーが優位だと思います。しかし街のインフラやカルチャー、エンターテインメントなどを見ると、むしろ東京の方がはるかに充実しています。シリコンバレーの街としての未来的な要素は、今まさにAppleがクパティーノに計画している「宇宙船」と呼ばれる新社屋が完成する2016年にならないと、見られないかもしれません。

 スタンフォード大学の櫛田健児氏は「日本はうまくシリコンバレー活用を」と指摘します。今年春にサンブリッジがシリコンバレーで日本人の起業家を招いて実施している研修イベント「Jannovation」で行った講義の中での話でした。

 スタンフォード大学アジア太平洋研究所で日本研究員を務め、シリコンバレーと日本の関係についても造詣が深い櫛田氏は、シリコンバレーは第二次世界大戦前から軍事を中心とした技術開発の目的で、政府からの莫大な投資と海外からの亡命を含む優秀な研究員の流入、産学連携を培ってきたといいます。環境整備はともかくとして、少なくとも現在の日本の借金ほどの金額をぽんと1つの地域に投資できるか? といわれれば、真似することが難しいのも納得しやすいと思います。

 一方、シリコンバレーではなく東海岸、ニューヨークに目を向けるとどうでしょう。ハリケーン Sandyが到来する前の週、半袖で汗ばむような陽気のニューヨークに出張してきましたが、東京はシリコンバレーよりもニューヨークを目指した方が良いのではないか、と感じました。

 企業の本社機能が狭い地域に集中し経済・文化の中心でもあるニューヨーク。特にファッションやメディア、広告など、デジタルと結びつきやすい業種では、コラボレーションによって、規模が小さいうちからスタートアップが大きな企業との連携を強めたり、事例を作ったり、といった活動が盛んに行われている様子見てきました。ネット企業同士だけではなく、ネット以外の業種の企業も積極的な連携によって、「面白いビジネスを育てる街」であることを強調できるのではないでしょうか。

 そうした視点の中で東京とニューヨークで感じた違いは、企業側のキャリアのスピードが速いことです。スタートアップの起業家が20代、30代に多いだけでなく、企業の管理職も30代ばかり。例えば出会った中規模のスーパーのチェーンで食料品の仕入れからプロモーションまで行うマネージャーは、筆者と同じ32歳で、1つの商材を任され、毎年数億円の取引から販売までを任されていると言います。

 若い世代が仕事を回している環境では、スタートアップの新しいアイデアを取り入れたり、そうした人たちとのネットワーキングを欠かさず仕事をしている姿を目の当たりにすると、シリコンバレーとは違うビジネスと場所のメリットを東京はもっと強調できるのではないか、という期待感が湧いてきました。

 ここには、ニューヨークという街が忙しすぎるために、40歳を超えても仕事を続けたくない環境という側面もあるのかも知れません。では、日本の場合、東京を離れてビジネスをする場所はどこか? という「次の選択肢」も含めて考えておく必要がありますが。

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 都市を行き来すると、定住しているときに見えてこなかったことや、当たり前の風景が気になったり、違った景色が目に飛び込んできたりするものです。本連載でも、こうした視点をなるべくご紹介していきたいと思っています。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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