このページの本文へ

あのすべり台も体験した!緊急着陸訓練をJALのCAに学ぶ!

2012年11月23日 14時00分更新

文● 藤山哲人

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

CAの笑顔が指揮官の真剣なまなざしになる
その瞬間を体験

 訓練センターの撮影ができるだけでも滅多にないチャンスだが、今回は搭乗客役として実際の訓練に参加することができた。まず体験したのは、離陸時にトラブルが発生し離陸中断、即時機外に脱出するというシチュエーションだ。

 通常は機内で映画を楽しむスクリーンから「当機はただいまより離陸いたします」という聞き慣れたアナウンスの直後、エンジンフルパワーでランウェイを走り出すが、何らかの異音が聞こえる。離陸中止のアナウンスが流れると同時にブレーキがかかり、CAは声を振り絞って「頭を下げて!Head Down!」を繰り返す。これは離陸前に必ず流れるエマージェンシーデモや、シートに備えられている緊急時のマニュアルにある衝撃防止姿勢を取ることを意味する。

通常の座席では、交差した手を前のシートにかけ、交差した部分におでこを当てた体制をとる。このとき足は肩幅に広げて踏ん張るようにする

ドア横の席では、肩幅に広げた足を両手でしっかり掴んで前傾姿勢を取る

 機体が停止すると、電気系統がダウンしたようで照明が消え、女性の叫ぶ声が聞こえる。これに対してCAは即座に「大丈夫落ち着いて!Stay down calm!」と大声で抑制。キャプテン(機長)からの「直ちに脱出せよ」という命令がかかると、機外の火災などを確認しスライドの展開を確認、反対側のドアを担当するCAと確認を取りながら、搭乗客を速やかに機外に誘導する。

「急いで!Harry!」と手をまわしながら旅客を誘導。すべての指示は、短い日本と簡単な英語、そして手を使ったジェスチャーで示される

 学校や職場の防災訓練とは大違いで真剣そのもの。迫真に迫った訓練で乗客役の我々はシャッター切るのを忘れてしまうほどだ。訓練前に光っていたストロボはほとんど光らない。一番緊張感がなくダラダラしていたのは、我々取材陣というお恥ずかしいその様だった。

小走りで非常口に向かい、ドアの縁でジャンプ

幅跳びの要領で足を前に出し、手を前に突き出した状態でこぶしを握りスライドを降りる

スライドを降りる姿勢を前からみると写真のような体制。ハイヒールは危険なので脱ぐように指示されるのにも納得

 なお手を前に出し拳を握るのは、スライドに手をついて摩擦熱でヤケドをしないようにするため。さらにスキーと同様に、目線を地上に向けていれば適度にブレーキがかかりゆっくりと降りられる。逆に怖がって空を見てしまうと、ブレーキが効かず加速してしまうとのことだった。

 筆者も高さ3~4mのドアから地上にスライドで降りさせてもらったが、怖さは微塵も感じなかった。このスライドはボーイング777のもので、同時に2人の乗客が降りられる。ビニールプールのような見た目だが、体育館にある運動用マットの生地(おそらく麻とナイロン)にビニールコーティングをしたような素材で、弾まないトランポリンを斜めにかけたような感じだ。滑降時間は座ってからスライドした場合は、地上に足がつくまで4秒。本番さながらにジャンプして飛び乗ると3秒といったところ。ただ実機のものよりすべりが悪いと伺ったので、実際の滑降時間はもう少し短くなるだろう。またジャンプして飛び乗ると、スライドが30~50cm程度一瞬凹み、体が弾むことがない程度に体重をしっかり支えてくれるので、見た目より怖さはないはずだ。

海上に不時着するまでの12分間
救命ボートになるスライドで脱出

 次に体験したのは、すべてのエンジンが停止し飛行困難となり、最善策として海上の不時着する場合を想定したものだ。キャプテンから「やむなく海上に不時着するが、CAは訓練を受けているので慌てずに乗務員の指示に従うように」とのアナウンス。不時着までの時間は12分と告げられる。チーフパーサー(機内でのCA長)はその猶予時間を聞くやいなや、救命胴衣の付け方や衝撃防止姿勢の徹底を7分で行なうように指示。これを受け各ドアのCAが時刻とお互いの役割を確認し合う。矢継ぎ早に行なわれる一連のプロシージャ(手順)に緊張感を覚えるが、同時に落ち着いて連携し合って行動するCAの一挙手一投足に安堵感も覚える不思議な感覚だ。

L2とR2担当のCAが互いの時計を確認し合い、それぞれの役割分担を決める

デモでは見たことがある風景だが、実際にシートの下から救命胴衣を取り出し、説明通りに着けようとするがなかなかうまくいかない

 一通りの説明と予行演習を行なうと残り時間はあと4分。今度は脱出時にCAをアシストする乗客を各ドア3名づつ募る。名乗り出た乗客や指名された乗客は、残り少ない不時着までの時間内に、ほかの乗客の誘導手順(2名は通路の乗客が押しかけないように整理、もう1人は脱出ドア前で誘導)を指示して、最後に「あなたは何を行ないますか?」と確認。説明を理解しているかを最後にチェックしていた。その姿は軍を指揮する司令官のリーダーシップで、そこには接客するCAの顔はまったくない。

「あなたと、あなたは(と言って手をその人に向ける)、このドアが開くまで殺到するお客様をブロックしてください」と説明

 キャプテンからあった12分という時間内にすべての説明と準備を終え、再びキャプテンから「着水1分前」のコール。衝撃防止姿勢を取りつつ、その時に備えていると、機体は無事海上に着水したようだ。

 CAはすぐさま、火災や燃料漏れ、海面の水位などを確認し、ドアを開ける。今回はR2のドアが開かなかったようで、アシストする乗客に手伝ってもらうも、それでも開かない。「このドアはダメ」と宣言するとL2ドアへの誘導を開始した。

L2ドアから脱出するように誘導するCA。「脱出!Evacuate!」と繰り返す。Escape(脱出)ではなくEvacuate(退避)なのは、機外に出ることを伝えやすいためだろう

 先の離陸時のアクシデントでは、スライドが滑り台の役割をしたが、海上へ不時着した場合はスライドそのものが救命ボートになる。乗客は直ちに救命ボートに乗り込み、定員数になると機体からボートを切り離す。

救命ボートに乗り込んで機外に脱出したところ。次々と乗客が乗り込んでくる。足元はふわふわして歩きにくいが、沈みそうな気配はまったくない

この角度から見ると救命ボートがスライドであることが分かる

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

ASCII.jpメール アキバマガジン

クルマ情報byASCII

ピックアップ