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保存期間は3億年? 最強のメディアの正体を日立製作所に聞く

2012年11月19日 12時00分更新

文● 美和正臣 撮影●小林伸

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1本のレーザーを100本に分ける空間位相変調器

――多スポットで記録できるという話ですが、画像の点1個が、1ドットですよね?

塩澤:そうです。

――写真の右上に5×5ドットのパターンがありますが、あのパターンの縦横倍のものがいきなりボンと記録されるわけですか?

塩澤:そういうことです。

――ちょっとよくわからないのですが、最初のレーザービームは1本なわけですよね? 100くらいの多スポットに分けるのはどうやっているのですか?

塩澤:フェムト秒レーザーの光を空間位相変調器に反射させるのですが、中身は、このようにメッシュ状に切られています。各メッシュで光の特性、具体的には位相というものなんですが、これを制御することができます。対物レンズでこの反射光を集光すると、先ほどご覧いただいたような多スポットができます。任意の多スポットを作るように、メッシュの部分で反射光を制御しているわけです。

――ちなみに記録レイヤー0からレイヤー3まで、いきなり全部を記録できるのですか?

塩澤:そこはフォーカス位置を変えて、1層ごとに記録していきます。再生には透過型の一般的な光学顕微鏡を使っておりまして、倍率が20倍くらいです。それほど特殊なものではありません。

――えっ、そんな倍率なんですか。中学校の理科室にもありそうですね。

塩澤:ええ。顕微鏡で撮像した画像データをパソコンに転送し、信号処理を行い0と1のデジタルデータとして再生します。信号処理の内容としては大きく分けて2つありまして、1つ目がコントラストの強調処理になります。これは同じサンプルを見る時にフォーカス位置を変えると、このようにドットが白く見えたり黒く見えたりする現象を利用したものです。「白引く黒」という計算をやると、このようにコントラストが非常にはっきりした画像が得られます。電気の世界でよく使われる差動信号処理みたいなものですが、コントラストが強調されるわけです。もう1つは輪郭強調処理と呼んでおりまして、画像処理の世界では「アンシャープマスク」と呼ばれているものです。元画像から一度ボケ画像を作ります。こうすると高周波成分が除去されて、他の層からのノイズといった低周波成分だけが残ります。このようなボケ画像を元画像から減算することで、よりくっきりした形の画像が得られるわけです。

コントラスト強調処理

輪郭強調処理

――この2つを組み合わせて再生させるわけですね。

塩澤:そうです。

――今のパソコンでも可能な信号処理を使っているわけですか。

塩澤:再生は、装置も信号処理も特殊なことをやっていないので、後世の人達が容易に再現できるだろうと思います。

 こちらのグラフが実際に顕微鏡写真から再生したデータの品質を評価したものです。4層それぞれの結果を示しています。縦軸がS/Nで、信号の品質を示すものです。大きいほど良いということになります。各層で先ほどご説明した信号処理を行う前と、信号処理を適用した後の結果を比較しています。お分かりになるように、信号処理によって品質が改善されています。S/N15dBを目標にしており、これが大体エラーレートが0に相当するS/Nになります。信号処理を適用することですべての層でエラー0相当のS/Nが得られるわけです。

4層のS/Nグラフ。中央の2つの値が若干下がっているのは、両側から影響があるため

――画像の処理アリ・ナシだと、結構な差があるんですね。レイヤー1、レイヤー2は真中の2層でいいのですか? この2つが僅かながらS/Nが下がってしまうのは内部にあるからということですか?

塩澤:そうです。外側の層は片側の層からしか影響を受けないですが、中間の層は両側から影響を受けるためです。次に耐熱性についてご説明します。こちらのグラフは、横軸が高温で加熱した時間、縦軸がS/Nの変化量になっています。今回試作したサンプルと、前回発表したサンプルを比較して示しています。ご覧いただくと分かりますように、2009年に発表したサンプルは900℃で加熱していくとS/Nが低下していっているのに対して、今回のサンプルは1000℃で2時間加熱してもまったく劣化がありません。

2009年の試験結果に比べると大きくS/Nの変化量が改善されているのがわかる

――材質が変わったということですか?

塩澤:同じ石英ガラスです。2009年の発表の時は、記録は外部の業者に委託したため、詳細な記録条件が不明ですが、おそらく今回に比べて低いエネルギーで記録されているため耐熱性に差が出ていると考えております。実際に顕微鏡で撮影すると今回のものに比べてコントラストが低くなっています。一般に記録のエネルギーが低いうちは、石英ガラスの屈折率が変わって見えるのですが、パワーを上げていくと実際の構造物ができます。2009年のものはその屈折率変化で、今回発表しているものは具体的な構造物、微小な空隙があいていると考えています。

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