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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第106回

冨田勲「イーハトーヴ交響曲」世界初演公演インタビュー

電子音は自然の音だし、僕たちも自然現象なわけでしょう

2012年11月17日 18時00分更新

文● 四本淑三

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宇宙から降る音を聴くはずだった、幻のFREEDOMMUNE

―― 一昨年FREEDOMMUNEというイベントが組まれていて、冨田さんのプログラムも用意されていたんですが、雨で中止になってしまいました。あれは、どういうイベントになるはずだったんですか?

冨田 あれは残念だったねえ。明け方、太陽が出てくるときに、小鳥たちの鳴き声みたいなものが、宇宙から降ってくるんです。地上にアンテナを立てて、キャッチするとそこに入ってくる。ドーン(曙光)コーラス※5と言うんですけど。戦時中にいつ空襲になるかわからないから、一晩中ラジオつけっぱなしにして寝ろって言われていたんですが、明け方、太陽が出てくる時に聞こえてきたのが、それなんです。

―― 去年の末に出たアルバム※6に入っていた「ピヨピヨ」鳴っている音、あれですね。

PLANET ZERO Freedommune zero session with Dawn Chorus

冨田 そうそう。今のラジオはそういうノイズを除去してしまうから入ってこなくなってしまったんだけれど、昔の真空管のラジオには入ってきたんですよ。これが第一次大戦のときに無線の中に入ってきて、敵の暗号じゃないかって大騒ぎになった。今でも聞けるんです。ところが今は電波が多くなっちゃったから、そっちのノイズの方が多くなっちゃったんだね。

―― 都会の夜空に星が見えないみたいなことですね。でも、それをいまの都市環境でやれるんですか?

冨田 だから8月の1日から3日間、浅間山麓で録ったんです。周りからあまり電波が入ってこない位置で。もし(FREEDOMMUNEの会場である)川崎で上手く録れなかったら、それをバックアップにしようと。それと僕のシンセサイザーの「惑星」と、本間千也くんのトランペットのソロで、朝の太陽の光を浴びながら、そのドーンコーラスと一緒にやるという計画だったんですよ。

―― もったいないですね。今年もFREEDOMMUNEはあったんですが、リベンジの計画は?

冨田 もう屋外は懲りたというので、今年は室内だったよね。僕が提案したのは(陸前高田市の)一本松。あそこは海の近くで、東側を向いているわけだから。でも実現できなかった。それは宇川さんにも言ったんだけど、とにかく向こうには泊まるところがないですから。駐車場もないですし、人が集まってきたときどうするか。いろんなことが現実的ではなくて、計画はつぶれてしまったんですけど。

FREEDOMMUNE 0<ZERO> Official Movie

―― でもいずれは。

冨田 素材は揃っちゃってるから。朝日を浴びながらね、暁のトランペットというのは、ものすごくいいと思うんですよね。ただ、だんだん僕自身が年取ってきちゃって、だいぶヤバくなってきていて。80になればね、だいたい周りが生きていないから。

―― そんな寂しいこと言わないでくださいよ。

冨田 だって自然現象だからしょうがないよ。僕自身も結局ね、現象なんですよ。台風だって現象ですよね。あれが何でできているかというと空気と水、それと熱ですよね。それが本州を抜けて北海道の先まで行って、水と空気に戻るわけですよね。僕も似たようなものでね、宇宙の塵が集まってできているわけで、いずれは宇宙の塵に戻るわけです。

―― まだ初演も終わってませんが、今回のコンサートの再演は考えられていますか?

冨田 まだ何も決まっていませんけど、やっぱりね、盛岡ではやりたいと思っています。今回のこと(東日本大震災)もあるし。そういうのをあからさまに表に出すの嫌なんだけど、やっぱり気持ちの中にはあるんです。東北には子供の頃から行っていましたからね。(イーハトーヴ交響曲の)冒頭に出てくるのは岩手山の大鷲(オオワシ)なんです。それがあらわれると、種をまく季節が来たと。大館に親戚がいて、大学の頃に盛岡で花輪線に乗り換えて、客車から「ああ鷲だ!鷲だ!」って。力強いんですよね。やれ津波だなんだって、みんな海のほうを見ていますけど、その背後には、この鷲がいるんですよ。


※5 ドーンコーラス : 太陽から放出された電子が地球のヴァン・アレン帯を通過する際、無線機で可聴域となる電波を発生するためだと考えられている。

※6 去年の末に出たアルバム : 2011年のFREEDOMMUNEで演奏されるはずだった音源は「PLANET ZERO Freedommune<zero>session with Dawn Chorus」としてリリースされている。



著者紹介――四本淑三

 1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。


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