ユーザーへのアプローチ方法を
変えることができない携帯キャリア
キャリア側も苦しい立場にある。Viber、Skype、Facebookメッセージなどにより、中核事業である通話、SMSなどの領域が侵されつつある。一方でLTEなどネットワークのアップグレード、メンテナンスにコストがかかり、通信料金では激しい競争にさらされている。一時期「土管(パイプ)化」として取り上げられたが、世界のキャリアの多くが、LTEで料金値上げはできても、根本的な問題解決を進めていないようにみえる。
Kramer氏によると、キャリアはカタログスペースやショップの陳列スペースを端末メーカーに販売するなどして、メーカーに助けられている状態という。
だが、メーカーもいつかは資金が底を尽きる。Kramer氏は共同マーケティングの例として、T-Mobile USAのキャンペーンを見せる。GALAXY S IIやS IIIといった端末が並ぶが、どれもSamsung。「Samsungを買うならなんでもいいといっているようなもの」という。おそらく、消費者側からすれば外見ではほとんど区別がつかないスマートフォンだ。
クアッドコア、デュアルコアなど細かい仕様を気にするユーザーはごくわずかだ。となれば、目につく端末、ブランドを知っている端末、自分にあった価格で手に入る端末を手に取るのが自然な反応となる。スマートフォン市場で“すごい”“かっこいい”などの感覚が生まれているのかとKremer氏は首を傾げる。
スマートフォンで何ができるのか、タブレットがどのように生活を変えるのか。そういったことを示していない。「キャリアのビジネスのやり方はまったく変わっておらず、端末と価格のみを並べている。非常に残念だ」とKramer氏は遺憾を示した。キャリアについては、Andy Rubin氏とともにAndroidを立ち上げたGoogle VenturesのRich Miner氏も、「キャリアがもっとAndroid上でカスタマイズすると思っていた」と語っていた。
端末メーカー側もキャリア側も、ユーザーに驚きや感動をもたらしていないというのが今のスマートフォンの現状のようだ。だが、これらはすべて先進国の事情。Kramer氏が全員に警告するのは途上国だ。
端末にせよ、サービス側にせよ、イノベーションが起こっているのは中国やロシアなどの市場という。ここからのイノベーションが次の波となって押し寄せるとKramer氏は予想する。「今後3~5年」とKramer氏は言うが、動きの早いスマートフォン市場だ。これまでのコモディティー化の過程だけを振り返ってもめまぐるしく変化した業界だが、今後さらなる激動が待っていると感じた。
筆者紹介──末岡洋子
フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている
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