旅人 で、ウィンドウズだけを使っていたころに、ヴィーナスっていうトランスジェンダーの友達から「銀座のアップルストアでインストアライブやるから手伝ってよ」って言われたの。でもウィンドウズマシンしか持っていないからそれで参加しようと思ってたら、たまたまヴィーナスの横にいた、キツネ目のトランスDJがさ。
ユザーン キツネ目?
旅人 ほら、当時のトランスDJってキツネ目の人が多かったから。
ユザーン 旅人くんの周りに何人かいただけだよ、きっと(笑)。
旅人 その初対面のDJが「旅人くん、アップルストアにウィンドウズを持ち込むのは非常識です」とか言い出して。ちょっとイラッときたんだけど、確かにウィンドウズを持ち込んだらヴィーナスにも迷惑がかかるかもしれないじゃん。で、真ん中をとってカリンバを持って行った。
ユザーン なんでマックとウィンドウズの中間がアフリカの親指ピアノになるの(笑)。
旅人 だって家にそれしかなかったんだもん。でもそのとき、俺はカリンバで曲を作ったのね。「千年林檎」っていう、アップルの千年の繁栄を祈ったすごく神話的な曲でさ。
ユザーン その場で、即興で作ったの?
旅人 いや、きちんと家で書いてきた(笑)。一粒の種子が地面にポトッと落ちてきて、それが徐々に芽吹いて林檎の木になり、すくすく育っていく物語。カリンバとボーカルとディレイだけなんだけど、壮大でさ。15分におよぶ非常にシンフォニックなナンバーだった。
ユザーン なんだかすごそうだね……。
旅人 まぁ、俺の鬼気迫るカリンバの演奏をストア店員のジニアスたちはただ呆然と見てたんだけど(笑)。で、なんでそれに参加したかっていうと、ヴィーナスに「旅人、手伝ってくれたらアップルから容量がいちばん大きいiPodをもらえるのよ」って言われたからなんだよ。それを毎日楽しみに待ってたんだけど、待てど暮らせど送られてこなくて。半年経ってやっと届いたのが、なぜかいちばん容量が小さいiPodだった。でもさ、俺って音楽が大好きじゃん?
ユザーン うん、知ってるよ(笑)。
旅人 音楽大好きだから、8GBくらいじゃすぐいっぱいになっちゃって、仕方ないからまたアップルストアに買いに行ったの。そのときに、店員さんにひとつ素朴な質問をしたのね。「iPodに入れた音楽ファイルって、取り出すことはできるんですか」みたいな。そしたらその人が「あなたね、そんなことしたら著作権が守られないでしょうが」って冷たく言い放ってさ。俺はミュージシャンだからiPodがCDや著作権に与える巨大な影響も興味持ってたし、半年前その場でインストア手伝ってあげたわけで、そんな状態で「著作権が」とか悪びれない感じで言われたことがちょっと衝撃で。
ユザーン 確かにそりゃ腹立ちそうだね。
旅人 で、そこから俺は自分のブログやライブMCで痛烈にスティーブ・ジョブズ批判を始めたんだよね(笑)。ビル・ゲイツくらいの勢いで。そのときに、「iTunes Storeに音楽配信が一元化されていくのは不自然だから、自分のサイトから直接配信できるシステムを必ず作ろう」って決めたんだ。ジョブズを倒すためにも。
ユザーン それが、いま旅人くんがやってる音楽配信システム「DIY STARS」の始まりなんだね。
旅人 うん。だから、あれができたのはジョブズのおかげかもね(笑)。
「川越コンピューター学園」は
毎月MacPeople誌にて好評連載中です!
※編注:スティーブ・ジョブズが生前、ビル・ゲイツに対し「他人のアイデアを盗む恥知らずだ」と批判したなど、2人の確執は有名だ。しかし、ゲイツがジョブズを批判した発言はあまりなく、没後のインタビューでも功績を褒める発言をしている
U-zhaan(ユザーン)
インドの打楽器「タブラ」の奏者。ザキール・フセイン氏、オニンド・チャタルジー氏に師事するため毎年インドに出かけている。インドでつぶやいたTwitterのコメントをまとめた書籍「ムンバイなう。」((株)スペースシャワーネットワーク刊)が好評発売中
写真/松川コウジ
スタイリング/志葉則行