アップルだからこそ切り開ける、
小型タブレット市場
アップルは常に本質に迫る会社だ。人々が「ちゃんと使いたくなる製品を作って初めて、世の中に変化を起こせる」と信じており、実際にそうした製品を生み出している。最近では競合他社のタブレットが増えており、そのすべてを合わせると、出荷台数シェアの半分ほどをiPadと分けるまでになってきた。だが、実際にタブレットからどの程度ウェブが使われているかを調べた調査データによれば、91%がiPadからのアクセスだという。結局、それ以外のタブレットは、ガジェット欲しさに買われるだけで、それほど使われていないことが分かり始めている。
アップルという看板を背負っているからには、残り9%の使われない側のタブレットを作るわけにはいかず、現在のiPadに加勢して、アップル製タブレットからのウェブアクセスをさらに100%に近づける努力をしなければならない。
片手操作と使い勝手の良さ。この究極のバランスを徹底的に議論して、アップルが打ち出したのが、iPad miniの「7.9インチ」というサイズだ。
「7インチのタブレットと0.9インチしか違わない」と思うかもしれないが、画面のインチ数は対角線で計るため、実際の面積の違いに換算するとiPad miniのほうが35%も広くなる。これに加え、Androidの場合ボタンなどの表示で画面が狭くなる分を差し引き、ウェブページが表示される実質的な面積を比較すると、縦持ちで49%、横持ちで67%もiPad miniのほうが画面が広くなり、ウェブブラウジング体験に大きな影響を与えることになる。
この点だけでも大きいが、そもそもAndroidのタブレットではいくつか壁紙などがあることを除けば、基本的にタブレット用に特化して作られたアプリがほとんどなく、3〜4インチ画面のスマートフォン用アプリを引き延ばして使っていることが多い。そうなると、例えば有名なレストランガイド「Yelp」の公式アプリも、せっかく7インチ画面があっても余白だらけのレストラン一覧表を表示するのが精一杯となってしまう。
これがiPad版では、ちゃんとiPad 2の解像度を元にアプリをデザインし直しているので、右側の余白部分に地図を表示するなど、レストランの位置関係を分かりやすくしている。スマートフォンではなく、わざわざiPadを使うことの意味が生まれているのだ。
ちなみに、iPad miniはサイズこそ7.9インチなものの、これまでのiPad 2と同じ解像度(1024×768ドット)の画素だ。これまで9.7インチで表示していたものを、対角の長さで1.8インチもの差がある小型ディスプレーに詰め込んでいるので、Retina解像度まではいかないものの、かなり高解像度に見える(おそらくRetina化することで増す価格や本体の分厚さを考慮して、まだRetina化までする必要はないと判断したのだろう。だが、実際の解像感は、ぜひ実物を見て確かめてほしい)。
いずれにせよiPad miniであれば、iPad 2の解像度にあわせて、1ピクセル単位まで有効活用するように作られたアプリが、そのまま利用できるのだ。
同様にオークションサイト、eBayのサービスでもスマートフォンの小さな画面用に作られたアプリしかないAndroidでは、余白だらけの縦の一覧表から商品を探す必要がある。これが最適化されたアプリがあるiPad miniでは、画面の縦横に並べられたアイコンから好きなものを選ぶという、分かりやすい操作になっている。
音楽聴視サービス「PANDORA」のアプリも、Androidでは曲一覧と巨大な空白が目立つ一方、iPad版ではそこに曲情報を表示している。旅行ガイド「TripAdvisor」では右側に地図を表示など、27万5000本に及ぶiPad最適化アプリの存在が、iPhoneと比べて大きな画面をちゃんと意味のあるものに仕立ててくれるからこそ、iPad miniそのものにも存在意義がある。
単なる小型化なのか、ちゃんと全方位で熟慮してた上での小型化なのかの違いこそが、iPad miniとそれ以外ほとんどすべてのタブレットの間に大きな「差」を生み出しているのだ。
もちろん、そうはいっても、Android陣営ではなんとなく7インチを標準サイズにしてしまおうという動きが出てきたので、今後は7インチサイズに合わせたアプリも少しずつ増えていくかもしれない。
だが、iPad miniは、何も対応アプリ頼みの製品ではない。一度、7.9インチのタブレットを作ると決めたからには、どのような製品であるべきか、このサイズの製品ではどんな問題が発生するかを徹底的に検証し、配慮している。