このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

事業者よりユーザー視点で考えた「理想のデータセンター」

クラウド型と異なるコンセプトを持つキヤノンITSの西東京DC

2012年10月22日 09時00分更新

文● 渡邉利和

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

縦揺れ対応も!高い耐震性能を確保

 東日本大震災の経験後に完成するデータセンターとして、耐震性への配慮もきめ細かく行なわれている。建物自体が免震装置の上に載っている、というのは比較的一般的な構造だと言えるが、ユニークなのは縦揺れに対する制震装置も導入されている点だ。真下から突き上げるような揺れが来る直下型地震に対してこの揺れを相殺できるような効果的な免震技術はまだ存在しない。

建物の地下に設置された免震装置。地盤に対して建物を滑らせることで瞬間的な横揺れに対して建物はほぼ静止状態を維持できるというもの

こちらはあまり聞いたことがない縦揺れ制震装置。柱と柱の間で梁を支えるような形で設置されている。赤く塗られた部分が摺動することで梁のたわみによる上下振動を迅速に減衰する

 このため、対策としてはあらかじめ地盤調査を綿密に行なって直下型地震の発生が予想される場所の近傍を避ける、という対処が一般的だ。西東京データセンターでも、立地の選定は慎重に強固な地盤の場所を選んで建てられているのだが、それに加えて新たに導入された縦揺れ制震装置は、柱の間の梁がたわんで振動を増幅してしまうのを避けるためのものだ。建物全体が縦に揺すられることは避けられないにしても、必要以上のダメージを受けないための配慮だと言えるだろう。

需要の高い近郊型高信頼データセンター

 現在のデータセンターの考え方は、大きく二極化しているように思われる。最近話題になる最新のデータセンター設計では、自然冷却を最大限に活かした高いエネルギー効率を低コストで実現することを狙い、地方に大規模な設備を建設する例が増えている。たとえば、さくらインターネットの石狩データセンターや、IDCフロンティアの福島白河データセンターがよく知られているだろう。これらの設備では建物レベルでもモジュラー化が推し進められ、清浄で寒冷な気候を活かした積極的な外気冷房の活用が行なわれ、PUEは1.1台を掲げる。

 一方で、データセンターに関しては「いざというときに1時間程度で駆けつけられないと」という需要も根強く存在する。こうしたユーザーには、金融機関などの「システムダウンやデータ喪失などのトラブルは絶対にあってはならない」ユーザーであることも多く、信頼性が最優先、そのためには多少のコストアップは仕方ない、という考え方になる。

 西東京データセンターは、キヤノンITソリューションズ初の自社データセンターだが、同社はこれまでも既存のデータセンターのフロアを借りる形でのデータセンターの運営は事業として手がけてきている。西東京データセンターのファシリティは、こうした既存のデータセンターを利用した経験を踏まえ、ユーザー視点で「こういうデータセンターであってほしい」という理想をそのまま体現した設備になっているという印象であり、事業者視点での「投資効率/採算性最優先」になっていないと見て良さそうだ。

 都心部に集中するユーザー企業のオフィスから1時間程度で駆けつけられる場所、というだけでもコストが安いはずがないが、さらにデータセンターを建設できるだけのまとまった土地が出てくることは最近では少なくなっている。その意味では、キヤノンITソリューションズの西東京データセンターは新規大型物件として注目を集めるのは当然だろう。実際、3フロア総計で2300ラックを設置できる大規模データセンターでありながら、開業前の引き合いだけでもう全フロアが埋まりそうなほどの勢いだという。地方の高効率データセンターとは違った需要が確実に存在することの表われだろう。

サーバルームの様子。広いスペースが確保されている。予定されるラック設置本数は、1Fが700本、2Fと3Fがそれぞれ800本ずつの計2300本となる

 都心から近いという立地面での有利さに加えて、ユーザー視点での設備の充実という特徴があることから、西東京データセンターが高信頼データセンターを必要とするユーザーから歓迎されることは間違いない。なお、隣接する敷地にはもう1棟建設可能な余地を確保してあるということだが、その建設に着手する時期もそう先のことではなさそうだ。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ