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星新一がコンピュータで甦る? 人工知能は芸術を創れるのか?

2012年10月23日 12時00分更新

文● 美和正臣 撮影●小林伸

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コンピュータが小説を作るようになれば
著作権の新たな仕組みが必要になる

――5年後を目指して研究がスタートしたわけですが、そこまでにどのくらいのところまで到達できるのでしょうか。

 今は研究者は6人、瀬名さん入れると7人ですけど、この人数が少ないとは思っていません。人力を含めての力任せ系で50人以上で研究しないといけないというタイプのプロジェクトではないと考えています。作家が複数いたからといっていい小説が書けるとは限らないのと同じように、研究のアイディアもたくさんいたら出てくるというものではありません。でも1人だと専門が限られるので、いくつかの専門分野の人には入ってもらっています。

 5年というのは、このプロジェクトを考えたときにそもそも年数なんて考えてなかったんですけど、「記者発表の時に絶対年数を聞かれるよね」という話になりまして(笑)。ロボカップも、2050年までにワールドカップ優勝チームに勝つロボットを作ると言っていますよね。最初、90年代に始めたときは、何年までにやるなんてひと言も言ってないのだけど、一緒にやってた北野さんが、どこかのインタビューで「いつまでに誰に勝てればいいんですか」と聞かれて、に決めてませんと言うのも癪なので、「一番強いワールドカップのチームです。勝つのは2050年です」と言ったわけですね。2050年っていう目標は悪くないと思っているんですけどね。そういう意味では、このプロジェクトは10年は長すぎる。5年でできないかもしれないけれど、5年で足りませんでしたというタイプのではなくて、5年で頑張れるだけ頑張らなければいけないんです。分析したデータの上にいいアイデアを思いつけば、5年間である程度までいけるかなと思います。5年間でいい線まできたから、延長するというのはあり得ると思いますけどね。最初から10年とか30年とかいうプロジェクトではありません。

――出版社が、コンピュータが作った作品だと言わなければ分からないような時代がくると、面白いですよね。

 「某という作家はコンピュータだったんだよ、気づかなかったよ」とか言われたら嬉しいですね。でも、近い将来、そうなる。覆面作家で本人じゃなくて奥さんが書いていたというのがあるけれど、実はその人の家にあるコンピュータが書いていて、その人が書いたと称しているというのはあり得るでしょうね。でもしばらくは、コンピュータが書いたっていうのを公表すると好意よりは悪意のほうがきっと多いと思われるので、小説も含めて人間が書いたことにしないといけないかもしれませんね。  まあ、このプロジェクトをスタートできるようになったのは、瀬名秀明さんと星マリナさんが面白いって言って全面的に協力してくれたからです。こういうのがないと始められないプロジェクトだと思います。

――まず人ありきだったと。

 そうですね。人工知能ってそもそも、アメリカのSFの世界ではコンピュータが人間を支配する世界を目指しているって誤解されがちなんですけど、そんなことはない。コンピュータやロボットは、いつまでたっても人間の道具だし、もしコンピュータが小説を作るとしても、作家の尊厳を損なうのが目的ではありません。将棋で羽生さんに勝ったとしても、羽生さんを含めたプロ棋士の価値っていうのはまったく変化がないように、これでショートショートができたとしても人間のやる偉大さは変わることはない。逆に、偉大さを少しでも理解したい。このプロジェクトで言うと星新一さんを理解するということなんですね。

2012年のノーベル文学賞は映画「赤い高粱」でも有名な中国の莫言(ばくげん)氏が受賞した。近い将来、コンピュータが受賞することがあるのだろうか

――これで最終的にはノーベル文学賞とか獲れたら痛快ですね。

 そうですね。ショートショートというのは人をクスリとさせる、ほっとさせるっていうのがあって、長編小説というのは人を感動させる、泣かせるという部分にすごい力を持っているので、そういうことができる小説っていうのを作成できると嬉しいですね。大げさに言うと人間を幸せにできるような小説をコンピュータが生成できれば、芸術作品、音楽とか絵画もそうですけど、人工知能の目的に非常に合致します。

――ところで受賞したら、その賞なりお金なりは誰に渡されるのでしょうか? プログラムを開発した人ですかね。

 そういう意味では著作権というか、創作したものが誰に権利があるのかというのも問題になるでしょうね。今回はこのプログラムに報酬を寄越せと主張するつもりはありません。一定の名誉は欲しいですが。ある作家さんの元データを使って、コンピュータが作った作品が商品価値を持ち、どこかの出版社に売れたとします。プログラマーと作家さんと、どれくらいで権利を分けるのかということは、これからの社会で考えていかないといけない話なのかなと思います。コンピュータを補助に使って何か新しい作品を創造して、補助の比率がどの程度なのかというのを見る必要はあると思いますね。今回は星さんの文章をパーツとして使うので、出版社側に権利があっても全然問題ないと思いますが、これからコンピュータが進化したときに、社会的にクリアにしておかないといけない問題かもしれませんね。

――では最後に、今後はこんなことをしていきたいとか、こういう風になるんじゃないかという話をしていただけますか。やはり、ドラえもんみたいにペラペラしゃべってくれるとか、そういう方向なんでしょうか。

Image from Amazon.co.jp
鉄腕アトム(1) (手塚治虫文庫全集 BT 1)

 いろいろなところで言っていますが、私、鉄腕アトムが好きなんです。今でもアトムを作りたいと本気で思っているし、いつかできると思っているんです。今回のショートショートを作るっていうのもそれの一環のつもりです。鉄腕アトムであれば感性を持っている、人間の気持ちが分かるという設定ですので、人間の気持ちが分かるとしたら小説も、と考えたわけです。残念ながら私1人では絶対に鉄腕アトムは実現できないですし、もう少し言うと私が現役である間には鉄腕アトムはできないと思っています。ですから周りに少しでも、同じような考えを持ってくれる人が出てくれるといいなと思うわけです。そういうのを広げるために、例えば今回はショートショートを創作するプロジェクトをやるし、ロボカップをやってそういうことに興味を持ってくれる人というの1人でも増えれば、私としては鉄腕アトムの実現に近づけるのかなと、思ってるんですけどね。

――早くそういう時代がくるとおもしろいですね。

 ええ、おもしろそうですね。日本的にはそれがお友達であってほしいですけどね。アメリカ映画のように人類を敵に回すとか、そういうことではなく。

――ビックブラザーのようなものではなくですね。

 やはり人間が上です。いくら便利になっても道具なので。ひと言で言うと人間の友達としてのロボットがいいなと思っていますけれど。

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