パラメーター変更ではすまない
CPUからSoCへの転換
こうしたSoC化に関わるプロセスの問題は、当然インテルも以前からわかっていたので、90nm世代あたりから、ひとつのプロセス世代でCPU向けとSoC向けの2種類のプロセスを開発するようになっていた。大雑把に言えば、CPUはほとんどが偶数番台のプロセスを、チップセットやSoCが奇数番台のプロセスを利用していると考えればいい。
ではCPU向けとSoC向けで何が違うのか? それは基本となるCPU向けのプロセスのパラメーターをいくつか変更して、高性能だけでなく省電力動作する回路を用意したり、より高電圧のI/O出力を出せる工夫、あるいは受動部品を作りこむといったことが相違点となる。
つまりSoCを作るためには、CPUと同じ世代のプロセスでチップセット側を作りこむ必要があるが、これまではCPU側がどんどん微細化を進めてていたため、チップセット側が追従できなかったわけだ。
加えて言うと、インテルの45nm世代SoCプロセスである「P1267」は、あまり素性がよくなかったようだ。元々Atomは、2008年に45nmプロセスでデビューしたものの、これを利用したSoCは上述のAtom CE4100とAtom Z600のみ。Atom Z600は一応SoCであるが、低速I/Oや周辺回路は最小限で、もっぱらPCI Express経由でコンパニオンチップと接続という形態をとっていたので、SoCらしくはない。
大体チップセット自体が、最新の「Z77 Express」や「X79 Express」ですら65nmプロセスで製造されている。次の「Intel 8」シリーズは、一気に32nmプロセスにジャンプすると言われているあたり、P1267には何かしら大きな問題があったとしか考えられない。
こうした理由により、インテルとしては32nmのSoC向けである「P1269」が熟成されるまで、SoCを作りたくても作れないという状況にあった、と考えるほうが自然である。上のスライドの右側には、スマートフォン向けのMedfieldのダイ写真が掲載されているが、P1269自身が2009年に発表されながら、製造はやっと2012年に入ってからである。やはりCPUからSoCの変更は、実際には「パラメーターをいくつか変更」する程度ではすまなかったのだろうと、思われる。
なぜかClover Trailより遅れるMedfield
先ほども触れたMedfieldとClover Trailは、本質的には同じ製品である。Medfieldはスマートフォン向けなので、バッテリー容量が限られるためTDPも低めに抑えねばならず、CPUコアはAtomベースの1コアが中心の製品だった。ハイエンド向けには2コアの「Atom Z2580」もラインナップされたものの、動作周波数は1~1.33GHz程度(ターボブースト時は最大2GHz)。内蔵GPUは「PowerVR SGX540」か「PowerVR SGX544MP2」となっていた。
対するClover Trailは2コアを搭載し、定格で1.8GHz駆動となっている。搭載GPUは「Power VR SGX545」。全般的にClover Trailの方が性能は上で、その分TDPも高めに設定されている。Clover Trailはタブレット向けSoCなので、バッテリー容量もスマートフォン向けより大きく取れる。それを性能改善に当てた、と考えるのが妥当であろう。
ちなみに、Medfield自体は2012年2月に開催された「Mobile World Congress」で発表され(関連記事)、その後8月に開かれた半導体業界のイベント「Hot Chips」で詳細が発表された。Medfield自身にもいくつかのラインナップがある。そのうち「Intel Z2460」だけは製品情報が公開されており(関連リンク PDFファイル)、モトローラやレノボからすでに搭載スマートフォンも出ている。それにもかかわらず、Z2460を含むMedfieldはひとつとして、インテルのプロセッサー情報ページ「ark.intel.com」に掲載されていないという微妙な扱いだ。どうも、これらが正式に公開されるのは、Z2460以外のラインナップが揃う2013年になりそうだ。
一方で、2012年9月まで詳細が発表されなかったClover Trailは、Z2760のスペックがすでにプロセッサー情報ページのこちらに掲載されている。よってMedfieldの位置づけがいささか微妙ではあるにせよ、基本的に製品が登場する順序としては、Windows 8にあわせて投入されるClover Trailの方が、3番目のAtomベースSoCになるかと思う。
上で書いたとおり、技術的に両者はほぼ同一だし、スマートフォンとタブレットで本質的に要求される機能は変わらないので、実際には両者は同じもの、と考えてもよさそうに思う。
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